第5に、同性愛者です。クリントン候補は、同性婚反対の立場をとっていましたが、大統領選挙を視野に入れてか、「LGBT(女性同性愛者・男性同性愛者・両性愛者・性転換者)の権利は、人権である」と述べ、賛成に回りました。クリントン陣営の選対本部長のロビー・ムーク氏(36)は、同性愛者であることを自ら公表したことで有名です。オバマ大統領と同様に、クリントン候補も異文化連合軍の中に同性愛者を含め、彼らの票の獲得を目指しています。
本選で異文化連合軍を維持できるのか
異文化連合軍で選挙を戦うクリントン候補にとって、どの共和党候補が組し易いのでしょうか。率直に言ってしまえば、現在首位を走っているトランプ候補でしょう。前で紹介したUSAトゥデイとサフォーク大学による共同世論調査によりますと、トランプ候補に対する女性の非好感度は62%、ヒスパニック系は79%、アフリカ系は76%で、いずれも好感度を大きく上回っています(図表3)。
本選でクリントン候補とトランプ候補の対決になった場合、女性、ヒスパニック系及びアフリカ系における支持率は、すべてクリントン候補がリードしています(図表4)。従って、トランプ候補に異文化連合軍の枠組みを崩される可能性は低いと言えます。では、トランプ候補を追いかけるキューバ系のクルーズ上院議員が共和党候補者指名争いを勝ち抜いた場合、クリントン候補の異文化連合軍の枠組みを外せることができるのでしょうか。
結論から言えば、クルーズ上院議員も異文化連合軍の枠組みを崩すのは困難と言わざるを得ません。というのは、クリントン候補が、クルーズ上院議員を女性、ヒスパニック系及びアフリカ系の支持率において大きく引き離しているからです(図表5)。同じくキューバ系のルビオ上院議員の場合はどうでしょうか。同上院議員は全体の支持率において48%を獲得しており、45%のクリントン候補を上回っています(図表6)。
しかし、クルーズ上院議員と同様、ルビオ上院議員もヒスパニック系の支持率において、クリントン候補のそれを下回っています。それはどうしてでしょうか。 米国社会におけるキューバ系ヒスパニックとメキシコ系との不和が原因であると考えられます。キューバ系はメキシコ系と比べて、市民権を得やすいのです。その理由は、確かにキューバ系の政治亡命にありますが、肌の色の相違に帰する見方も存在します。
一般に、キューバ系は白人として、メキシコ系は非白人として見なされているからです。ルビオ、クルーズ両上院議員のヒスパニック系の支持率において、注目すべき点は、クリントン候補に対してそれぞれが25%と22%で、ロムニー候補が獲得した27%よりも低いことです。ロムニー候補は、共和党の支持基盤である保守派から支持を得るために、不法移民に対して「自主退去」という強硬策を提案しました。各州が州法によって不法移民を締めつければ、彼らは自ら退去していくと訴えたのです。この政策により、ヒスパニック系には「共和党は反移民の党である」という認識ができました。この認識を強化したのが、トランプ候補の例の「国境の壁」発言です。キューバ系の両上院議員のうちどちらが指名争いで勝ったとしても、共和党は党が持つ反移民のイメージを変えることがでない限り、ヒスパニック票を拡大するどころか、一層減少させてしまうのです。
結局、ヒスパニック票ではクリントン候補は、異文化連合軍の枠組みを維持することができるでしょう。共和党が同候補の異文化連合軍の枠組みを崩す可能性があるとすれば、ルビオ上院議員の女性票によってです。クリントン候補は、女性の支持率においてトランプ候補とクルーズ上院議員に対して50%以上を得ていますが、ルビオ上院議員には49%です(図表4・5・6)。クリントン陣営は、異文化連合軍の中で女性票の獲得に最も力を注いています。未婚の女性を引き付けるルビオ上院議員は、女性票においてクリントン候補と競い合うことができる唯一の共和党候補なのです。クリントン陣営がルビオ上院議員を恐れる本当の理由は、ヒスパニック票にあるのではなく、女性票を奪われ異文化連合軍を崩されることなのです。
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