2024年4月27日(土)

風の谷幼稚園 3歳から心を育てる

2009年10月23日

 「『衣服の自立』というのは、単に服を脱いだり着たりすることだけでなく、『寒い・暑い』『気持ちいい・気持ち悪い』が感じ取れる体と、それに対応できる力を育てることなのです。衣類のことを言い始めるときりがないのですが、昔はTPOを分かって行動できることを教えられてきました。今、もしかしたらこの言葉は死語になってしまっているのかもしれませんが、風の谷幼稚園では、子どもたちが見通しを持って衣服調節できる力を育てたいと考えています」(天野園長)

 感覚は子どものころに大きく成長する。逆に、これが育たなければ、動きづらい状態を動きづらいとも感じず、不潔な状態を不潔とも感じない鈍感な子どもが育つ。その結果、衣服に限らず、日常のさまざまな問題を感知できず、それに対応できなくなる。子どもが将来、このような事態に陥らないよう、日々衣服の指導に情熱を注いでいるのである。

見通しを持ち、状況判断をする。
管理能力の育成も視野に

 このほかに「衣服の自立」が意図しているのは、「見通しを持って生活できる力」と「状況判断力」を子どもたちに身に付けさせるということだ

 「たとえば『明日は野原で遊ぶ』とか『明日は雨が降りそうだ』という情報を与えた時に、その情報に反応し適切な服装ができる状況判断力を持った子どもに育ってほしいのです。見通しを持って準備し行動できるようになれば、環境に合わせて衣服で自分の体を守ることができますし、余計なことで煩わされなくなります。その結果、その日の活動に集中できるようになります」(天野園長)

 ちなみに風の谷幼稚園では、すべての園児が幼稚園に着替えを1セット置いている。その中身は子どもによってまちまちだが、上下の着替え・下着・ソックスが基本セットだ。そして、この着替えを行うタイミングは、基本的に子どもたち自身の判断に委ねられている。

 「寒くなってきたから、カゼを引かないように1枚着よう」

 「このくらいの汚れなら叩けば落ちる。だから着替えなくても大丈夫」

  「今日は汚れちゃったから持って帰って洗濯してもらおう」

 実際に4歳から5歳にもなると、風の谷の子どもたちはこのような判断を自分で行っているのである。

 さらに、「衣服の自立」を通じて、子どもたちの「管理能力」を育てることも目標だ。

 「まず、衣服の畳み方。子どもたちは、このような技術の獲得には高い興味を示します。そして『自分でできた』という喜びを味わいながら、この技術を自分のものにしていきます」(天野園長)

 次に、しまうときに所定の場所を決めるように指導する。さらに、「見通し」を持って、「どのようにしまっておけば、次回、必要な物が取り出しやすいか?」を考えるよう指導をする。これが当たり前の習慣として身についていくことで、物を無くしたり、必要な物を探すのに時間を使うといった無駄がなくなっていく。

 感覚の成長、見通し、状況判断、管理能力…。今回紹介したのは、「衣服の自立」の一部にすぎないが、「これらが幼児期に習慣化されていれば…」と今思う大人は筆者だけではないだろう。

 次回は生活力の最後の項目である「排泄の自立」について紹介していこう。

 ※次回の更新は、10月30日(金)を予定しております。

風の谷幼稚園
園長・天野優子氏が、理想の幼児教育を実現するためにゼロから建設に乗り出す。様々な困難を乗り越え、1998年に神奈川県川崎市麻生区に開園。「人間が人間らしく、誇りを持って生きていく」ための教育を実践している。

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