2024年11月22日(金)

海野素央のアイ・ラブ・USA

2016年1月19日

アイオワ州トランプ選対本部を訪問して

 トランプ陣営は、トランプ候補のキャラクターとメッセージに過度に依存した選挙運動を展開しています。確かに、トランプ候補の支持者は熱狂的ですが、彼らが党員集会及び投票所に出向くかは未知数です。当然ですが、共和党候補者指名争いを勝ち抜くには、熱狂的な支持者を組織化し動員して投票所に出向かせる必要があります。その役割を果たすのが、戸別訪問なのです。「イエス・ウイ・キャン(そうだ、我々にはできるんだ)」のスローガンで全米に旋風を引き起こしたオバマ陣営は、熱狂的な支持者を組織化し、戸別訪問によって投票所に出向かせるための戦略を練ったのです。同陣営は、有権者の熱意だけでは票を獲得できないという事実を十分把握していました。

 それに対して、トランプ陣営は支持者の組織化と動員に対する認識が足りません。以下で、例を挙げてみましょう。

 現在、アイオワ州及びニューハンプシャー州で戸別訪問を実施していますが、これまで一度もトランプ候補の草の根運動員と直面していません。しかも、玄関の前に同候補者のパンフレットが置かれているのを見たことがありません。

 アイオワ州デモインにあるクリントン陣営とトランプ陣営の選対の数を比べてみます。クリントン陣営は選対本部に加えて、戸別訪問を実施する「フィールド・オフィス」と呼ばれる事務所が、デモイン市内に3カ所あります。一方、トランプ陣営は西デモイン市に選対本部があるのみで、フィールド・オフィスはゼロです。

 トランプ候補の看板をもらうために、同候補の選対本部を訪問したときのエピソードも紹介してみましょう。

 クリントン陣営の運動員が敵の選対本部に入るには、言うまでもなく勇気が必要です。トランプ陣営から名前を聞かれたら「ポール・ヤマダ」と答え、住所は適当にデモイン市内にあるストリートを記載することに決めていました。トランプ選対本部のドアを開けると、受付に5、60歳代の白人女性が2人座っていました。筆者がトランプ候補の看板を求めると、左側の女性がアイコンタクト(視線の一致)をせずに、こう語ったのです。

 「皆、トランプの看板を欲しがっているからもうないの」

 非常に無愛想な対応でした。

 筆者が庭に看板を立てるので、3枚必要としていると主張し続けると、うるさい支持者だと思ったのか、その女性は席を立ち奥の部屋に入って行きました。数分もしないうちに、トランプの名前が入ったグレーのジャージをきた幹部らしき白人男性が、看板を1枚持って来たのです。

 「1つだけあったからこれをやるよ。あなたの名前は」

 正直に「モトオ・ウンノです」と答えました。

 「どこから来たんだ」

 彼は続けて質問をしてきました。

 「デモインからです」

 そう答えておきました。

 「来週、看板が選対に届くから取りに来ればやるよ」

 この幹部らしき男性スタッフはそう語っていました。

 トランプ陣営と筆者の会話は以上です。

 クリントン選対のスタッフにトランプ選対の対応について話すと、彼は驚いていました。それもそのはずです。まず、クリントン陣営では上のような対応は決してしません。選対を訪問した有権者を歓迎します。次に、看板を求めて選対を訪問する有権者には、必ず名前、住所、携帯番号、メールアドレスを記載してもらいます。さらに、コミットメントカードに署名を求めます。選対を訪問した支持者が投票所に出向くように促すためです。トランプ陣営は、地上戦の戦い方を理解していないという印象は否めませんでした。

 地上戦に時間とエネルギーを費やし戸別訪問で攻めるクリントン陣営に対して、空中戦重視で足腰が弱いトランプ陣営が、実際にどの程度支持者を動員し票に結びつけることができるのかに、筆者は注目しています。


  
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