2024年12月23日(月)

WEDGE REPORT

2016年1月27日

ウエストレイク周辺にガン患者が多いという事実も

 なぜEPAの対応がこれほど遅いのか、というと、誰も「どれだけの放射性物質が廃棄されたのか正確に知らない」という驚くべき事実に至る。マンハッタン計画当時には濃縮ウランの危険性は知られていたが、その製造過程で出る数多の廃棄物についての扱いは実に杜撰で、リパブリックのような民間の処理業社が処理を任される、というケースが全米で起きていた。

 しかも、問題は火災だけではない。環境団体などが調査した結果、埋め立て地から放射性物質が漏れ出し、周辺に広がっていることが確認されている。EPAはこの件に関しても「測定の結果、放射性物質は検出されたが国のガイドライン以下で健康被害にはつながらない」としている。

 しかし、ウエストレイク周辺にガン患者が多いことは州の調査でも明らかな事実だ。政府の対応に不満を覚えた住民が政府資料を精査した結果、国が「放射能汚染レベルは予想よりも遥かに重篤である可能性がある」と把握していた証拠となる文書を発見した。原子力専門家によると「前例のないほどのレベルの放射能汚染の可能性がある」という。もしこの廃棄物に火災が生じた場合、何が起こるのかは誰にもわからない。「ミズーリ州の真ん中で放射能緊急事態が発生する」と付近住民は恐れている。

 何より、付近住民にとって問題なのは、「もうここには住めない。住宅の価値もゼロに等しくなった。政府は我々に何を補償してくれるのか」という訴えだ。娘の友人が21歳の若さでガンを発症した、というある住民は「この地での人生は終わった。政府は私たちを見殺しにするつもりだ」と嘆く。

 1990年の時点でウエストレイクの放射性廃棄物の危険性はすでに指摘されていた。しかしリパブリックは廃棄物の移動命令に従わず、「安全」を繰り返してきた。事実は違法な投棄でリパブリック自身もどれだけの廃棄物がどれだけの広範囲にわたって埋め立てに使われたのか把握していないのだ。

 福島の事故が起きた時、日本在住の自国民に対し「原発から80キロ以内に立ち入り禁止」命令をどこよりも早く出したのは米国だった。その同じ国が自国内の問題についてはこれほど腰が重いのは一体どういうわけなのだろうか。

  
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