科学で斬るスポーツ

2016年1月30日

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心理学者もサポート

 合宿や本大会にスポーツ心理学者も帯同させた。兵庫県立大准教授の荒木香織さんだ。過酷な練習の中で、自分と向き合い、最大限の力を出すには、メンタルトレーニングが必要であることをエディーは気付いていた。プレッシャーにどう対処するか。選手を支え続けてきたのが荒木さんだった。荒木さんは高校、大学と陸上短距離の選手で、ノースカロライナ大グリーンズボロー校でスポーツ科学博士課程を修了。アスリートの立場にたてる心理学者だ。

 「日本代表は、メンタルトレーニング何それという感じだった。単なる暗示としか考えていなかった」と振り返る。選手らと何気ない会話の中で、不安やプレッシャーは自分で作るものであることを説き、選手らも自覚していった。自信も自分で作るものだと。

 試合で練習通りのパフォーマンスが発揮でいないのは、つい、考えなくてもいいことを考え、集中できなくなるからだ。心理学用語でいう「チョーキング」に陥りがちだった。チョーキングの原義は「窒息する」。「勝たなければならない」などという過度のプレッシャーを自分で作り出し、その中でまるで窒息でもしたかのように体がうまく動かない感覚のことだ。野球、ゴルフなどでは「イップス」と呼ばれている。ソチ五輪の女子フィギュアスケートの浅田真央さんが、ショートプログラムで失敗したのもこの「チョーキング」の一種と言われる。

 荒木さんは、自身のブログで、チョーキングへの対処法を記す。

 ① プレッシャーを受け入れる

 ② プレッシャーの中で意思決定をする経験を積む

 ③ 不安のレベルを下げる方法を身につける

 の3つを挙げる。

 そのうえでチョーキングを和らげる方法として、

 1) 呼吸法を利用する。 (例) ゆっくり深い息をする(1回または2、3回)

 2) 注意集中を自分自身の内から外へ変える。(例)顔をあげ、ボールに注意を向ける

 3) ポジティブで自分のガイドとなるようなセルフトークをする。(例)「いい感じ!」「できる」「Go!」「ハンズアップ!」

 大事なのはストレス、プレッシャーをなくすのではなく、うまく付き合うという姿勢だ。平常心で試合に臨むのは間違いともいう。

 荒木さんの加入で、チームはより強くなった。W杯後の選手のインタビューでもそれが伺える。

 なぜ、こうした心理学者をエディーHCは帯同させたのだろうか?

 「リーダーは選手のことをよく知らなければならない。今までの日本代表はあまりプライベートのことを語りたがらなかった。私生活のことがパフォーマンスに影響するのであれば、知らなくてはならない」と語る。

 エディーHCは、水泳平泳ぎ金メダリストの北島康介さんを育てた平井伯昌コーチに話を聞いたときのことをこう語っている。「平井さんは『(選手が伸びるには)小さな成功の積み重ねが大事だ』という。つまりコーチは選手に対して小さな成功を与え続けることである。私の練習も(猛練習ではあるが)必ず成功するメニューでトレーニングを終えることにした」。

 荒木さんは、こうしたエディーHCのコーチングを高く評価する。エディーは厳しい中にも必ずほめる。しかし、選手らはその意味するところを理解していない。「コーチングされることも、コーチングされる能力もない。日本人選手が悪いのではなく、教育が悪い」と語っている。しかし、日本代表選手らは少しずつ、コーチングを受ける下地ができていった。

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