安保激変

2016年2月26日

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辰巳由紀 (たつみ・ゆき)

スティムソン・センター日本部長

キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。東京生まれ。国際基督教大学卒業後、ジョンズ・ホプキンス高等国際問題研究大学院で修士号取得。在米日本大使館専門調査員、戦略国際問題研究所(CSIS)研究員などを経て2008年より現職。2012年よりキヤノングローバル戦略研究所主任研究員を兼任。専門は日本の防衛政策、日本の国内政治、日米安全保障関係、米国の対アジア安全保障政策。

 そして、肝心の2月23日の米中外相会談では、ケリー国務長官、王外相の両者が「協力できる幅広い問題があることを確認した」と、米中が全面対立しているわけではないことを強調する一方で、議論に最も多くの時間が割かれたのは北朝鮮問題と南シナ海問題であった。また、王毅外相は訪米中にカーター国防長官との会談を望んだが、カーター国防長官が拒否したともいわれている。

これまでにないオバマ政権の冷めた対応

 つまり、今回のオバマ政権の中国に対する対応は、これまでにないほど冷めたものだったのである。これまで民主党政権でも共和党政権でも、アメリカは基本的に中国を「アジアの大国」として扱ってきた。その根底には、「中国を大国として扱うことで、中国に大国としての自覚を促し、大局観に立った判断をしてもらう」すなわち、「中国の行動の形を作る(shape)する」ことを目指したいという期待があった。

 その理由は米中関係が抱える複雑さにある。世界経済の安定、地球温暖化問題やイランの核開発問題など、米中が協力しなければ問題解決に向かうことが難しい問題も多いが、その一方で、北朝鮮問題、台湾、人権など、考え方が全く相いれない問題も存在する。考え方が相いれない問題で全面対決すると、協力しなければいけない問題で協力できなくなってしまい、米国の国益を損なう結果となる。であれば、考えが相いれない問題でいかに、全面対決を防ぎつつ、中国の暴走を封じながら協力できる分野で協力をしていくか……これが、歴代のアメリカの政権が抱えている対中政策におけるジレンマだった。

 しかし、最近の中国は、そんな米国の期待を大きく裏切り、経済力の強さを背景に軍事力の近代化を押し進めるだけではなく、力に物を言わせて自国の主張をゴリ押しする行為を続けている。そんな中国に戸惑い、どうやれば中国の行動パターンを変えることができるのか、試行錯誤しているのが、ここ1、2年の米国の対中政策だったように思われる。昨年、習近平国家主席が訪米する直前まで、オバマ政権内でサイバー窃盗を理由に中国に対して厳しい経済制裁を科すべきかどうかが真剣に議論されていたが、あれは、アメリカのそんな試行錯誤の一つの現れだろう。

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