ところが実母は彼氏の面前で「絶対反対。結婚は許さない」と断言。「貧乏人どうしが一緒になっても家も車も買えない。高卒で工場勤めしても稼ぎは知れている。お互いに不幸になって別れるに決まっている」と言い放ったという。ティンティンは実母と喧嘩別れしたが、一人になって冷静に考えたら実母の意見が正しいと納得したという。「誠実な好青年でも稼ぎが少なければ一生貧乏暮らし。そんな惨めな人生は嫌よ」
そこでティンティンは人生をリセットしようと決心。工場を辞めて貯金を下ろして海外旅行へ。お金が続く限り旅をする決意で。故郷から陸路でベトナムに入りカンボジアからラオスへ。そこで黒人グループに出会って彼らの優しさに感激したというストーリーだ。
12月14日 午前8時。ティンティンは朝からなぜか興奮気味。理由を聞くと待っていましたとばかりに話し出した。「昨晩黒人グループと遊んでいたらスペイン人の旅行者がジョインしてみんなで楽しく過ごしたの。そのあとスペイン人の彼と二人で遅くまでおしゃべりしたの。彼はスペイン料理のシェフで地中海の一流ホテルで働いているのよ。夏のシーズン中だけ働いてお金を稼いでオフシーズンは世界を旅行して遊んでいるのよ。すごく素敵で親切な人なの。彼は一緒にラオスの北の観光地に行こうと誘ってくれたの。今日も彼とランチを食べて午後は一緒に過ごす予定なの」と気持ちは銀河系の彼方まで舞い上がっている。
午前8時半。コーヒーを飲もうとロビーに降りると先客がいた。コーヒーを飲みながら話したが英語が下手だ。聞いたらスペイン人であると。背が低く165センチくらいで小太りで禿げていておなかが出ている。しかし好人物のようで話好きだ。聞きもしないのに自分のことをべらべらしゃべる。「今年36歳だよ。以前結婚していたけど離婚した。子供が一人いるけどずっと会ってない。金がないので養育費も送ってないから会えないんだ。毎年夏は地中海のマジョルカ島のホテルのレストランでアルバイトして、シーズンオフにはホテルが休業するので生活費の安いバンコクで過ごしている。バンコクには彼女がいるので彼女のアパートに居候さ。観光ビザが切れたので二週間ほどラオスを旅行してバンコクに戻る計画なんだ」と問わず語りする。ティンティンが舞い上がっているスペインの王子様のようだが彼女の話す王子様像と正反対のダサいオジサンなので仰天した。