現代中国“当世愛人事情”
日本人の感覚では“愛人”(昔風に云えば“お妾さん”)というのは日陰の存在で他人には知られたくないであろう。ところが中国では“愛人”は恥ずべき存在ではないようだ。高級なクラブやバーで“愛人”にあったことがある。そうした高級な店ではしばしばお金持ちや成金が部下や関係者を従えて盛大に飲み会をやっている。外国人の私が一人で飲んでいるのを見た羽振りの良い中年男がシャンペンやカクテルを奢って話しかけてくることが何度かあった。それは自分の羽振りの良いことを自慢する虚栄心からであろう。そしてさらに同席しているうら若い美女を紹介されたことが二度ある。驚いたことに二度とも中年男が「俺の愛人だ」と私に紹介して彼女たちも堂々と私に挨拶したことである。彼女たちは愛人という立場を第三者に知られても違和感がないようだった。
知人の中国人の奥様にバーでの愛人のエピソードを披露すると「中国では若い女性にとっては美貌の対価としてお金をもらったり、なんらかの便宜を供与してもらうことは当然の行為であり普通ですよ。自分の美貌に対する正当な評価と考える女性が多いです」とのコメント。
北京郊外のスキー場でランチしていたときテーブルで相席になった中国人カップルは二人とも英語を話したが、中年男は米国留学から帰国したIT企業の経営者。連れの大学生風の美女を「奥さんじゃなくてカノジョです」と私に自慢げに紹介したが、彼女も「彼はお金持ちで高価なプレゼントもくれるし、休暇には外国にも連れて行ってくれるのですごく楽しい」ときれいな英語で満足げにしゃべった。
ティンティンの思惑と不退転の覚悟
話をティンティンに戻す。中国の地方都市のふつうの女の子にとっては未だに欧米は夢の国だ。ティンティンもそれなりに自分の容姿に自信を持っていたのであろう。だからこそ普通の工員の恋人を捨てて“何か”を求めて旅に出たのだ。ティンティンにとってはたとえ風采があがらなくともスペイン(西班牙)という西側先進国の白人男性というだけで一緒に旅行する価値があると判断したのだろう。一挙に“玉の輿”を狙うのは難易度が高いかも知れないが、まずは自分を誘ってきたスペイン人と親密な関係になって、それから次のステップを考えるというアプローチではないか。
夕刻7時半頃に迎えのピックアップトラックが来て、ティンティンは見送りの黒人たちと一人一人大げさにハグしてから、大粒の涙を流しながらスペインおじさんと一緒にトラックの荷台に乗った。二人を乗せたピックアップは大音量のロックを響かせながら走り出しビエンチャンの夜の街に消えた。
⇒第16回に続く
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