上掛け水車の制御盤の説明をする久保田さんと筆者
久保田さんは様々な形の小水力発電の実証実験を平野さんたちと共に始める。タテ軸型、らせん型、上掛け水車型。手作りできるものは手作りし、コストを下げた。始めは失敗を繰り返したが、徐々にコツをつかんだ。
改良した「らせん型水車2号機」はパイプの中のらせん状のプロペラが水流で回ることで発電する。設置から7年たった今も動き続け、最大800ワットの電気を起こしている。これは売電せず、NPOの事務所などで使っている。
集落の中心近くに設置したのは上掛け水車型。水車が勢いよく回ることで発電する。この電気は隣接の農産物加工場に供給。使われていなかった減圧乾燥機を復活させ、とうもろこし粉や乾燥フルーツなどを製造する。寒暖差の大きい石徹白のとうもろこしは糖度が高く名産品。形が悪く出荷できないものをパウダー状に加工し、パンやケーキ用として販売している。
初めは奇異な目で見ていた住民たちの意識が変わったのは、こうした取り組みに全国からの視察が相次いだのがきっかけだった。今でも年間500人以上が水車を見にやってくる。09年には石徹白にやってくる人たち向けにカフェをオープン。4月から10月の土日に営業を始めた。何せ300人に満たない集落なので、飲食店も土産物店もなかったのだ。
住民の変化を目にして平野氏も本気になる。いつまでも「よそ者」としてかかわっていたのでは、本物の地域おこしはできない。11年に石徹白への移住を決めたのだ。移住を前に奥さんの馨生里さんは洋裁学校に通い、集落で「石徹白洋品店」を始めた。集落の伝統的なものに惹かれ、石徹白に伝わる野良着「たつけ」を復活させた。そうした地道な取り組みが、小水力発電への住民の理解を深めていったのだ。
上掛け水車