使ったことのある人にしか分からない味
当時の写真と比較しても変わらぬ外観を呈する館内に一歩足を踏み入れれば、外の喧騒と打って変わって、昭和の時代にタイムスリップする。
ロビーに入りすぐのドアを開けると、なだらかな斜面に朱色の席がずらりと並ぶホールが広がる。しかし、昨今の現代的なホールとは少々趣が異なり、天井が低めであるうえ、舞台の奥行きもけして広いとはいえない。
これについて豊島公会堂を運営する、としま未来文化財団の仁平直雪さんは、「舞台の奥行きが狭いため、公演の際には舞台展開が出来ず、せりまで使うこともあった」と振り返る。本格的なコンサートホールのような音響設計がなされているわけでもないため、「歌手やアーティストからすると音が良くない」とも。
他方で、豊島公会堂では「テラヤマプロジェクト」と題し、去年まで3年間連続で劇作家・寺山修司による作品をミュージカルへと仕立て上げた公演を行ってきた。舞台展開ができない舞台での演出は、演出家にとって腕の見せどころである。仁平さんは、「この舞台を(演出家として)使った人だからこそわかる苦労があった」と懐かしむ。
豊島公会堂取り壊しの理由
そんな豊島公会堂の解体・建て替えが行われる理由について、14年の豊島区新ホール基本計画によると、「開館から60年以上が経過し、施設全般にわたり老朽化が進んで」いるとある。またそれによって「施設機能が著しく低下し、交通至便の位置にありながら、近年のニーズに応えられない状況」であるとされている。12年の豊島公会堂60周年の際に作成されたパンフレット上にも豊島区長の言葉として「現在では施設の老朽化とともに設備面などで、利用される皆さまには、ご不便をおかけしております」との一文が掲載されており、行政側の施設老朽化に対する危機感が見て取れる。
一方、パンフレットによると、豊島公会堂の年間利用状況は、開館した52年から61年の間で400~500回台で推移しており(52年については108回とあるが、これは開館が11月であったためである)、800回台を3回叩き出した72年~81年を除いては、おおむね600回から700回ほどで推移している。近年においても、02年から11年の間は全て600回台で推移しており、利用率は低下していないといえる。