また、25日にラオスで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)の国防相会議でも、南シナ海問題を域内の問題とする共同宣言が採択された。さらに今後、6月3日にはシンガポールでアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)も開かれる予定で、ここでも中国の南シナ海進出が焦点の一つになることは確実だ。
アジアだけでなく欧州でも、中国の鉄鋼の過剰分の海外での廉価販売の問題について、欧州を中心として中国に対する非難の声が高まっている。国内経済ともリンクするだけに、これも中国にとっては舵取りが難しい問題だ。
行政組織に蔓延する茶坊主
他方で、中国国内の行政は腐敗の取り締まりによる綱紀引き締め、習近平への権限集中と「頂層設計(トップレベル・デザイン)」といわれる習近平自身によるトップダウンでの政策決定によって、行政組織の主体性が失われて最小限のことだけやっておく公務員の不作為や習近平の意向を忖度して過剰なパフォーマンスを行う権力への追従が蔓延している。メディアもしかりで、2月に習近平が中国中央電視台など主要メディアを視察した際に、各社が率先して党への服従を表明したことも記憶に新しい。
例えば、昨年10月には習近平は英国を訪問し関係が冷え込んできた米国に代わる「大国関係」を欧州先進国とのあいだに新たに築こうとした。しかし、中国経済の先行きの不安から世界各国の中国に対する関心は急速に薄れてしまった。今年1月には中国はいきなり「これからは中東だ」と中東各国との関係重視の方針を打ち出し、習近平主席がサウジアラビア、エジプト、イランを訪問し、今後の対アラブ諸国政策の方針を示した公式文書を発表した。中国で外交に関してこのような文書が発表されるのは異例だ。習近平の外交は「これからは中東の時間が始まる」と高々と宣伝されたが、それ以降、中国外交の「中東時間の時計」は止まってしまったかのようだ。
まさに「習近平の意向がすべて」な空気が中国の政治やメディアを支配しているといっていい。強いリーダーの「主観的に語る」各国との関係のあり方によって、中国の外交は振り回されているかのようだ。そしてリーダーがデザインする理想の自国像を忠実に描くため、メディア各社は極端な自国肯定と他国否定を繰り広げているのだ。