最後に、私が外国人の友に得意げに自慢するのが、『梵』の汁もの。湯葉のしぐれや真薯、雲片やみそ汁、そうした汁ものの味わいが格別なのである。精進なので、鰹節もジャコも使わない出汁が、繊細で深い味わいなのだ。「動物性のだしは一切、使っていないのよ」と解説すると、外国人の友は、一様に目を丸くして驚いてくれる。これが楽しい。
ご飯にかかるのは、青海苔ではなく、天茶といって抹茶になる前の香ばしい茶葉。それに自家製の香の物、白みその味噌汁のだしが絶品
この出汁の力か、それとも香の物の魔力か、お腹いっぱいになった後でも、不思議と、ご飯とお味噌汁はぺろりと平らげてしまう。自宅で試みるも、なかなか、これほどのコクがでない。そこでご主人に伺ってみた。
「昆布と、きのこのだしをよく使います。しいたけだけでなく、まいたけやきいろたけも、乾燥したり、粉にしたりして使います」
こんな機会にでもないと訊ねることができないので、最後に今後の夢を伺ってみると、「できれば、店をもっと小さくしたいですね」という意外な答えが返ってきた。
「ジャズで言うセッションじゃないですが、お客さまから何かを受けて、これに応えるようなお料理。でも、自分の我を出し過ぎると、気が入り過ぎてよろしくない。10人の方がおられたら皆さん違う。なので、自分らしさを出すのは60~70%でいいと、銀座の瀬戸物屋のご主人に教えられたことがあります。季節ごとにみえる常連さんがおられるので、その時には器を変えたり、ちょっと新しいものを入れてみる、そのくらいでいいのかもしれませんね」と静かにほほ笑む姿が、いつにも増して修行僧のように見える。
おいしくいただく度に、なぜか背筋が伸びるような心地がする店である。
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