時系列で見ると、接続水域に最初に進入したのはロシア艦である。これは今年3月にウラジオストクを出港し、東南アジアでの国際対テロ演習に参加した太平洋艦隊の駆逐艦アドミラル・ヴィノグラートフ以下3隻の艦艇グループと見られる。報道によると、ヴィノグラートフ以下の艦艇は8日午後9時50分ごろに久場島と大正島の間の接続水域に南側から進入した。一方、中国艦はその3時間後にあたる9日0時50分ごろに北側から同接続水域に進入している。
中露艦艇が接続水域を出たのはほぼ同時で、9日午前3時5-10分ごろ。ともに接続水域を北側へと抜けている。したがって、ロシア艦がそのまま北への進路を維持したのに対し、北から進入してきた中国艦は接続水域内でUターンして再び北へ抜けたことになる。
以上を見るに、ロシア艦に政治的意図があったかどうかは今ひとつ判断しがたい。ロシア艦が日常的に接続水域を通過しているのであれば特に政治的な意図はなく母港への最短ルートを取ったということになろうが、我が国の統合幕僚監部は南西諸島付近におけるロシア艦の通過状況をほとんど明らかにしていない。そこで筆者が独自に関係筋へ確認してみたところ、ロシア艦はこれまでにも東南アジア方面との往復で同じようなルートをたびたび通過しているとのことだった。
一方、昨年11月には、太平洋艦隊の巡洋艦ワリャーグがインド洋で演習を実施した帰路に南西諸島付近を通過し、「数日間に渉る往復航行、錨泊」を行ったほか「一部我が国接続水域内での航行」があったことを統合幕僚監部が発表している(統合幕僚監部が南西諸島におけるロシア艦の活動を公表したのは、確認できた範囲ではこれが唯一)。つまり、ロシアは最近になって単なる通過とは異なる動きも見せていたわけで、これも判断を難しくする要因であろう。
中国がロシアを利用したのか
もうひとつの問題は、仮に何らかの政治的意図があったとして、それは何かということである。この場合、領土問題を巡って日露関係が大きく動き出しそうな中で、ロシアが対日牽制に出たという見方がまず考えられよう。ロシアの対外政策において、対話と軍事的牽制を組み合わせるというパターンは一般的に見られるものであり、実際に北方領土や千島列島では軍事施設近代化の動きなどが進んでいる(ただし、これらについても一般的な軍事力整備を対日牽制策としてプレイアップしている側面もあり、一概に全てを「対日」で捉えられるものでもない)。