2024年4月26日(金)

WEDGE REPORT

2016年6月10日

 しかし、これまでロシアが展開してきた牽制策はあくまでロシア単独のものである。中国はこれまでにも、台湾海峡問題や尖閣問題に関してロシアを自国側に引き込もうとしてきたものの、ロシアは極力中立を維持しようとしてきた。領土問題で中国側に立ったところでロシアのメリットは薄く、むしろ日米との対立に巻き込まれるというコストが極めて大きいためである。

 では、今回、中露の艦艇が同じ時間帯に同じ接続水域を航行したことをどう捉えるべきか。中露が連携して今回の行動に出たのであれば、ロシアの対日牽制は新たなフェーズに入ったことになり、今後の領土交渉にも極めて不利に働くことが予想される。しかし、現状ではその可能性はあまり高くなさそうだ。

 すでに述べたように、中国艦はロシア艦の接続水域進入後に北から進入し、ロシア艦とほぼ同時に水域を出ている。この動きを見るに、中国は事態の推移を見て後追いで行動を決定したのではないか。

 だが、これまで軍艦の接続水域進入を手控えてきた中国が初めて軍艦の侵入に踏み切った理由は何か。これについても真相はいまだはっきりしないが、やはりいくつかの可能性が考えられる。

 第1に、ロシア艦の接続水域進入を見た現場の艦長が独断で決めた可能性がある。中国側にしてみれば尖閣は自国領であり、ロシア艦またはこれを追尾している海自艦船が接続水域を通ることは認められないとしてこうした決断を下したのではないかという見方である。ただし、ロシア艦が平素からこの海域を通っているのだとすると、今回に限って軍艦が出てきた理由がはっきりしない。また、このような政治的影響力の大きな決断を現場の艦長が勝手に下せるのかという問題もある。

 第2の可能性としては、中国側がロシアを利用したという考え方も成り立つ。ロシア艦の通過に便乗し、中露が尖閣諸島問題で共同歩調を取ったかのように中国が見せかけた、というのがこの種の見方で、たしかに一定の説得力はあろう。ただ、この場合、利用される格好のロシアとの関係性を中国側がどう計算したか、という疑問は残る。

 一方、日本政府は今回の事案を中露で別個に取り扱い、中露vs日本という構図で捉えられることを極力避けようとしているようであり、この意味では2つ目の可能性が強く懸念されているのではないかと思われる。

  
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