2024年4月17日(水)

古希バックパッカー海外放浪記

2016年7月3日

開かれた森を歩く

Monistrol d'Alleの村落。よくみると空き家が目立つ

 4月26日 朝から昼頃までずっと深い森の中の巡礼道を辿る。午後からは森を切り開いた草地が広がる放牧地を歩く。天気はうす曇り、時々小雨、しばしば雲間から太陽が顔を出す。天候が目まぐるしく変化するので雨合羽を出したり、フリースを着たり、半袖になったりと忙しい。比較的平坦な道が続くが昨日の雨によりぬかるんでおりしばしば足を取られる。

 ヨーロッパ大陸は中世以前には鬱蒼とした森に覆われていたが、長年にわたり人々が木を切り倒し営々と耕作地や草地を広げてきた歴史があると読んだことがある。しかし歩いていると、しばしば放棄された耕作地や放牧地があり「A Vendre」(売ります)と看板が出ている。

 EU統合により経営が成り立たなくなった農家が売りに出しているのだという。途中で出会った巡礼者のドイツ人夫婦は「フランスはEUで最大の農業補助金を受取って自国の農業を維持しようとしている。それはEU全体から見れば無駄なことである」と批判。それにしても長年かけて開墾してきた耕地が放棄されて中世以前の森に戻っていくのは寂しくもったいない。

 村落を通過すると「A Vendre」の看板が貼られた売り家が目立つ。村人に聞くと若者が都市に出て行き人口が減少し、農家は経営難から家も放棄して空き家が増えているという。よく見ると村落の半分以上が空き家だ。フランスの地方でも過疎化が急速に進んでいるようだ。

良き家庭人ジェフに学ぶ巡礼道の歩き方

シュトゥットガルトから巡礼にきたドイツ人夫婦

 午後から次第に雨模様となり気分も足取りも重くなるが、さらに10km近く歩かねば次の巡礼宿にたどり着けない。切り株に腰かけて休憩しているとクマのような体格の大男がやってきた。モントリオールから来たジェフと名乗った。

 一緒に歩きながら話していると善良な家庭人という印象だ。小学生の娘が二人おり彼の天使だという。ジェフは年に二週間程度の休暇を取り毎年少しずつ巡礼道を歩いている。一緒に歩いているとジェフの素朴で善良な精神が伝わって来る。彼は心から巡礼を楽しんでいるようだ。

 私は雨、ぬかるみ、重い荷物という三重苦と気の遠くなるような聖地までの距離に心が折れそうであった。ジェフと話していて自分が根本的に間違っていると気付いた。現在の状況をあるがままに全て受け容れてそれを楽しみ慈しむ。それの連続の果てに聖地が待っている。それが本来の巡礼の姿であろう。目前の困難にくじけたり、一日の歩行距離や計画の達成率に一喜一憂しているようでは巡礼の意味がない。

 ジェフの言葉の端々や彼の持っている雰囲気から本来の巡礼のありかたが少し理解できた。


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