2024年11月22日(金)

サイバー空間の権力論

2016年6月17日

 「現代人はストレスが多く電波の鎖に繋がれている」とフランスの国会議員が発言しているように、労働時間外でも人々は仕事に気を取られてワークライフバランスを維持できない。仕事場を離れてもメールやSNSなどの存在が、結局のところ我々を労働から解放しない。その解消として考えられたこの法案は、別名「切断する権利(le droit de la déconnexion)」あるいは「つながらない権利」とも呼ばれている。いわば強制的にデジタル・デトックスをさせることで、労働者の健康を保たせるというのである。

 ただし、現状この法案はフランス下院を通過しているにとどまり、上院の審議・通過がなければ成立しない。法案も従業員50人以上の企業に対して、規定の勤務時間外にメールを送ることを禁じるなどといった企業の独自ルール制定を促すものであり、破っても罰則などがない点は留意が必要だ。だが問題の本質は、こうした法案が下院を通過するまで議論されている点にある。

日本ではまず法律化は不可能

 ところで、「切断する権利」を日本でも法律化しよう、と思う読者はどのくらいいるだろうか。筆者がこのニュースを知って最初に思ったことを素直に表明すれば、「いいことだけど日本では無理だな」というものだ。日本の労働文化では、仕事とプライベートを分けることは難しいからだ。これは何も筆者のような昼夜を問わず原稿のやりとりをする職業に限定されない。どのような職業であれ、仕事以外にも仕事のことを考えてしまう、社会文化的な問題なのである。

 一般にフランスは労働運動が盛んで、デモやストライキの多い国として知られている。また日本に比べてバカンスなど休みを多くとることから、労働に対する意識も日本とは大きく異なる。フランスであれば、仕事とプライベートを分けることも可能かもしれない。だからこそこうした法案が現実味を帯びているとも解釈できる。

 日本であればどうだろう。誰もが休むからこそ、自分だけは仕事をすることで他者よりも成績を上げたい。あるいは、客が待っているなら休みも関係ない、という(奉仕の?)精神からか、いずれにせよ技術インフラとして文字通り通信を切断しないかぎり、仕事を続ける労働者は多いだろう。

 本連載で以前扱ったように、日本人は「内輪ルールの優位性」がある。その場の空気感やノリが法に優先する文化では、有給取得が進まないのと同様に仕事場以外でも仕事を行うことが容易に予想される。それは、誰もが本当はわかっている悪癖だが、それ故に現場では言い出せない、そのような悪循環が日本の現状だ(詳しくは以前の連載を参照)。


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