2024年7月16日(火)

BIG DEAL

2016年7月13日

グローバルの成長信仰を捨てた英国

 ところで、パナマ文書にあがっている富豪達の多くは、グローバル経済の中で成長し、その恩恵を受けた人々だ。冒頭の紳士もこのカテゴリーに入る。彼らはいきおい経済のグローバル化を是とし、その成長こそがさらに世界を豊かにすると信じている。このグローバルの成長信仰に飛び蹴りを加えたのが、英国のEUからの離脱、Brexitである。

 これに関しては様々な解説が既に与えられているが、グローバル経済を是とする支配階級に対して、ミドル階級以下が反乱したのだというコメントが多い。自ら資本を持たない者たちは、その労働力を提供することでしか生計を立てられない。しかし、経済のグローバル化が進行する中で、自分たちより安価な労働力が地球上の最も安価な市場で調達されてどんどん送り込まれてくる。経済的な基盤を脅かされた彼らがNoを突き付けるために立ち上がった、という訳だ。

 安価な労働力を形成しているのは移民であるため、彼らへの憎悪は激しく、排斥、暴力という連鎖にもつながる。そんな人々の気持ちを代弁する極右政党が、各国で支持を集めており、フランスやオランダでもEU離脱の国民投票を呼び掛ける声が高まっている。過去20年でEUという非常に大きな構造物ができたが、その構成要素が不穏な熱量を持って振動を始めているようだ。氷に熱が加われば水になってダラダラ流れだし、さらに熱せられれば水蒸気になってまさに雲散霧消してしまう。そんな不安定さがBrexitによって顕在化してきそうな予感がある。英国内においてもスコットランドはかつて英国からの分離独立を試みたことがある。彼らこそEUとの関わりを強めたいと願う人々であり、今回の「英国の総意」としてなされたBrexitの判断に到底納得できないであろう。

 Brexitにおいて、英国の一時的なリセッションを案じる声は多い。だが私がそれ以上に心配しているのは、ヨーロッパ全体でソサエティ分断・分裂の流れが本格化し、それに起因する混乱が長期にわたって続くことだ。アラブの春では、個々の国で独裁政権を倒すことでは成果を上げたが、民主的な国家と経済の基盤を作り上げるには程遠い状態が続いている。経済的に報われなければ不満がたまり、自分以外の誰かに向かってそのエネルギーを発散させたい衝動がつのる。

 そうした中でISのようなテロ組織が跋扈し、さらに不安定さを増長していく。Brexitに前後してトルコやバグダッド、それにバングラデシュで大変痛ましいテロが発生しているが、経済のグローバル化、独裁崩壊の混乱、宗教などの様々なイシューが複雑に繋がった結果として発生しているものだと言わざるを得ない。ヨーロッパがそこまでの混乱状態になるとは考えたくないが、ユーゴスラビア崩壊の混乱は確かに存在したことは忘れてはならない。


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