シライ3はこうした内村のリ・ジョンソンを間近に見て、それより難しいものに挑戦してみようという白井選手の遊び心のなせる技だ。しかし、簡単にできるものではない。シライ3を成功させるために、リ・ジョンソンの演技の時より速く助走し、床を蹴る力をより強くしなくてはならない。そのために白井選手はさまざまな工夫を凝らした。
スポーツ科学の専門家は「白井選手は助走時の加速を後転飛びで増し、さらに床からの反力をうまく使っているため、高さと速度を得た。特にジャンプをするときの姿勢がいい。床に対して真っすぐで、バネのある床の反力をうまく引き出している」と分析する。こうしたことが難なくできるのも失敗の練習を繰り返し、何をどうすればいいのか、長年の経験からつかむことができるからだ。失敗の練習の中で、失敗の感覚、成功の感覚をつかんできたからにほかならない。
まねる能力の高さは遊びから
関西大学の小田伸午教授(スポーツ科学)は「白井選手は、幼少のころからトランポリンで遊び、失敗を無上の喜びとして楽しんでいた。その失敗から何かをつかみ、学習していく能力が極めて高い。つまり最初から上手というのではなく、できないことができるようになる能力が高いということ」と指摘する。「言い換えれば、白井選手は一流選手の動きをまねする能力も高い。だからこそシライ3のような大技も、内村選手の演技を見てまねし、そこに自分の個性を付け加えた。こういうことができるのも自分を外から見た外的イメージを作る能力が高いからだ」と強調する。
動きの上達というのは、自分の内からの感覚「内的イメージ」が小脳などに形成され、意識、無意識下でそのイメージに実際の動きが一致するということだ。「カメラで撮影した自分の画像である外的イメージが、内的イメージに抜け出て、まるで内的イメージのように感じられる。失敗と外的イメージの正解とのずれをどのように解消するのか、小さい時からの遊び、連続する失敗の中から学び、時が来ると、正解の動作ができるということを学習してきた。これは白井選手、内村選手に共通することだ」と語る。
白井選手の床演技でひねる回数は合計22.5回。内村選手から「気持ち悪い」といわれるほどの回数の多さは、実は他の競技でも今後、生かされる可能性が大きい。小田教授は「ひねりは白井選手の強みだが、得意の床や跳馬だけではなく、鉄棒、平行棒、あん馬の下り技にも応用できるという楽しみがある。リオ五輪でも注目したい」と話す。