日本軍の関与は明白な事実である
慰安所は旧日本軍の要請によって作られ、業者は軍によって管理された。軍は業者と慰安婦の移動に便宜を図り、コンドームも軍が支給した。慰安所は、部隊について移動することもあった。そして、親に身売りされたにせよ、あるいは就業詐欺にひっかかったにせよ、不本意な形で慰安婦になることを強いられた女性たちが多かったことも、実数は不明ながら推測できることである。結婚して慰安婦をやめた女性を部隊命令で強制的に慰安所へ戻した事例もある。慰安所の運営に日本軍が深く関与したのは明白な事実である。戦地や後方などという立地や業者の違いによって待遇は千差万別だったが、慰安婦の尊厳が尊重されていたなどは言えない。
サンフランシスコ講和条約や日韓請求権協定がからむ「請求権」の問題になると難しい面が出てくるけれど、日本に道義的責任があることは明らかだ。そう考える日本人も、この映画で出てくる処刑シーンのようなものを出されると考え込むことになるのではなかろうか。自分たちの考える正義を絶対視し、それを受け入れない他者を全否定するかのような姿勢は、結果として、自らの理解者になってくれるかもしれない人をも遠ざけてしまうのである。
要するに寛容さの欠如であるが、反対の立場に立つ人の中にも大同小異の人がいる。典型例が、ソウルの日本大使館前に建つ少女像の撤去が慰安婦合意で日本が約束した10億円拠出の条件になっているという主張である。
少女像移転は10億円拠出の条件ではない
以前の記事でも指摘したが、昨年12月28日に日韓両国の外相がソウルの韓国外務省で記者会見し、明らかにした合意内容は次のようなものである。大事な内容なので、ここに再掲する。
すべての前提となる認識は、▽当時の軍の関与の下に多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、日本政府は責任を痛感している▽安倍首相は、日本国内閣総理大臣として心からおわびと反省の気持ちを表明するーーというものだ。
さらに両国の約束として、▽韓国政府が元慰安婦を支援するための財団を設立する▽日本政府が財団に10億円を拠出する▽国連など国際社会において相互非難をしない▽合意がきちんと履行されることを前提に、慰安婦問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認するーーことが明示された。
そして、前述したようにソウルの日本大使館前に建つ少女像について、韓国政府は「適切に解決されるよう努力する」と表明したのである。少女像の移転が資金拠出の条件だなどとは一言も言っていない。