2024年4月27日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2016年8月12日

 中国は、「日本は南シナ海問題に全く無関係だ」と考えているということでもある。中国が南シナ海を領海化しようとするのは、米国が中国の発展を妨害するのを阻止するためである。中国は、米国の軍事攻撃を真剣に恐れている。

 南シナ海全体を中国のコントロール下におこうとすることで、周辺の東南アジア諸国と軋轢を生じていることは、中国も理解している。しかし、それは、中国にとってみれば、中国と当事者である東南アジアの国との間の領土紛争である。しかも、中国を防衛するために東南アジア諸国が「少々の」犠牲を払うことは「仕方がない」ことなのだ。

 そして、この中国のストーリーの中に、日本は出てこない。「無関係であるにもかかわらず、日本は米国の尻馬に乗って中国を叩いている」と考えるから、余計に日本に腹を立てるのだ。さらに、中国は、こうした日本の行動には、南シナ海問題以外に目的があるからだと考える。中国の認識では、その日本の目的が、尖閣諸島を巡る領有権争いにおいて、日本が有利に立つことなのである。

 つまり日本と中国は、双方とも、「相手が自分をけん制している」と考えている。そして、中国は、中国に対するけん制など効かないということを実力で証明しようとしているのだ。日本からすれば、それは中国の誤解である。日本は、南シナ海における状況に無関係な訳ではない。もちろん日本は、中国をけん制するために、南シナ海問題において中国に嫌がらせをしている訳でもない。単に、「国際的な問題を解決するのに軍事力等の暴力的手段を用いない」という最低限のルールを守って欲しいだけだ。

中国の「被害者意識」と「権利意識」

 日本と中国では、南シナ海問題の認識の仕方がまるで異なる。日本にとって、南シナ海は重要な民間海上輸送路である。「誰にでも開かれた海」という原則があって、初めて日本のシーレーンは安全に航行できる輸送路になる。日本は、「中国が軍事力や法執行機関という実力を行使する組織を用いてこの原則を変えようとしている」と受け止めている。そして、それは、「暴力的手段を用いれば国際的なルールを変えられる」という国際社会の出現につながるものだと考えるからこそ、中国がとる手段に反対するのである。

 一方の中国にすれば、南シナ海問題は、中国を防衛するために必要な安全保障上の問題に過ぎない。国際秩序に対する挑戦であるということを、中国は認めようとしない。そもそも、中国にしてみれば、現在の国際秩序は欧米諸国が勝手に決めたものに過ぎない。それを中国が守る必要などない、というわけだ。中国の認識によれば、国際秩序や国際社会のルールは、大国が決めるものなのだ。中国がプレイすべきは、大国間のゲームだと認識しているのである。「認識している」というより、「信じている」といった方が正しいかも知れない。


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