これまで、自分たちの利益のためなら軍事力でも用いてきた欧米諸国、特に米国が、ひとたび自分たちの権益が満足するレベルに達したら、自分たちの権益を守れるように作ったのが、現在の国際秩序であり国際的なルールだと考えるのだ。そのストーリー中では、中国は「欧米諸国に不当に抑圧される被害者」である。「戦勝国であり大国である中国が、本来、国際秩序を形成すべきであるにもかかわらず」という前提が付くことによって、被害者意識はさらに高まり、鬱憤が溜まることになる。
中国は、このような強い被害者意識と権利意識を背景に、「強くならなければ、いつまでも不当に抑圧される」と考える。実際に、中国の研究者たちは、「中国が軍備を増強して強くなったからこそ、米国が中国に対する態度を変えた。米国は、中国と衝突を避けなければならないと考えるようになったので、事態をエスカレートさせないように慎重に対応するようになった」と主張する。中国の軍事力増強が地域を安定させ、中国の安全を保障していると言うのである。
尖閣問題において「対等」を狙う中国
この考え方は、東シナ海にも適用されている。中国は、「これまで、尖閣諸島周辺海域で日本の海上保安庁が圧倒的に優勢を保っていたために、尖閣諸島領有に関する議論は常に日本有利に進められてきた」としている。そして、中国が海警局を強化し、大量の漁船による漁業活動を展開するようになって、日中の勢力が対等になった今、尖閣諸島の領有について日中が対等な立場で議論できるようになったと言うのだ。
問題は、中国が言う「対等」とは何かである。現状が不公平だと言う認識では、現状を変えることができて初めて公平だということになる。「対等」であるという意味は、中国が勝てる状態のことを言っているに等しい。
一方で、中国の研究者等は、日本の対応を非常に気にかけている。会って話をすると、必ず、「日本はどう対応するのか?」と質問してくる。しかも、表現を変えつつ、何度も質問されるのだ。例え、挑発的な行動に出たとしても、中国の本音は、日本と軍事衝突したくないのである。日本と軍事衝突すれば、米中戦争にエスカレートする可能性がある。そして、米中戦争になれば、中国は敗北する。
中国が狙うのは、日本が海上警備行動を発令しない範囲において、尖閣諸島の実効支配を奪うことである。日本が手を出しにくいように、少しずつエスカレートさせてきたのだ。しかし、今回の事案で、中国側が日本の出方に神経質になっているのは、自分たちでも「エスカレーションの度合いが強かった」と認識しているからに他ならない。