科学で斬るスポーツ

2016年8月19日

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 先日、日本経済新聞(2016年8月9日付)に興味深い記事が載っていた。渡米1年目のマリナーズのコーチで、監督も務めたジョン・マクラーレンの証言だ。

 大リーグで最初のオープン戦序盤、イチローは三塁側ばかりにファウルを打っていた。監督も含め、大リーグの速球に適応できないのではないかと思った。しかし、当のイチローは「ファウルを打っていたのは大リーグの投手の球をできるだけ多く見たかったからというではないか。その考え方にも感心したが、狙ってできるというのも驚きだった」

 こうしたファウル打ちを可能にしたのは、球を最後まで呼び込むことができる懐の深さにあるだろう。イチローは大リーグへの適応を、すでにシーズンが始まる前にできていたことになる。

身体を良く知る

 イチローが絶対変えないものはほかにもある。誰もがわかる最たるものは、体型だろう。180cm、77kgはほとんど変わらない。

 イチローは常に身体のバランスの重要性を説く。長年、培っていたノウハウは、体型の変化で微妙に変わってしまうからだ。そのため、ウエートトレーニングは不必要とさえいう。

 「身体を大きくするのは全然だめ」

 筋肉を太くすることは、それによって関節、腱などに負担がかかる。バランスが悪い。だから怪我をしてしまう。ウエートトレーニングで筋骨隆々にした結果、一時的に結果は残すもものの、怪我などで引退を早めた選手は枚挙に暇がない。

 実は、試行錯誤を続けるイチローも体を大きくする筋トレに走ったことがある。オリックス時代のシーズンオフに体を大きくしようとした。

 「春先はいつも調子が悪かった。身体も大きくなったが、スイングスピードはかえって遅くなった。シーズンが始まり、身体がやせてきてスイングスピードが戻った。春先に調子悪いのはそのためだった」と話したことがある。

 イチローの自宅には、トレーニング機器があるが、これは身体を大きくするものというより、関節などの可動域を広げるために必要な筋肉を鍛えるためのものである。いわゆるコンディショニングのための筋トレだ。

Stockbyte

 筋力トレーニングをあまりやらないことについて、小田教授は「バットを振るなどの動作に必要なのは、力を入れることではなく、無駄な力を抜くことであることを熟知しているからだ」と語る。

 例えば、打席に入った時、並みのコーチは、緊張で十分なスイングができない選手に肩の力を抜けというだろう。見えるところしか指摘しない。しかし、イチローは「上半身の力みを緩めるには、膝下の力を緩めることで達成できる」と語る。バッティングの一連の動きの中で、肩甲骨、骨盤とどこが結びつくか、その動きを実現するにはどこを修正すればいいのか、試行錯誤の上に、つかんでいるということだろう。

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