科学で斬るスポーツ

2016年8月19日

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 小田教授は「イチロー選手は、スイングなどを修正する場合、間接的なところに目をむけ、そこから修正に入る。自分の身体のつながりを知りぬいているというところが最大の強みだ。これができるのも、コンディショニングとして毎日、念入りに筋トレ、ストレッチ、野球の基本動作、補助トレーニングなどをルーティンとして繰り返しやっているからだ。これで微妙な日々の変化に気付くことができる」と強調する。

修正能力の高さの秘密
無常観と感覚

 身体を知るということで修正能力の高さが生まれた。しかし、イチローがすごいのは、年齢を重ね、日々移ろいゆく中で修正方法も変えているというところにある。

 鴨長明は随筆「方丈記」で、「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」と、無常観をこう記した。同じように見えても絶えず変化しているということだ。

 これと同じ無常観をイチローは持っている。一見、同じように見えるが、修正方法さえ進化させないと、無常の身体の変化には対応できないことをイチローは知っていた。肩のリラックスと膝のリラックスを結びつけたように、直接的ではない、見えないところで修正するという手法は変えないが、同じところを変えるという修正はしなかった。

 「変化する自分を良く知っている。通常の選手は、一度うまくいった修正方法にこだわり、自らの身体の変化に目を向けない。しかし、イチローは、毎日同じことを繰り返した結果、きわめて整理された筋神経回路網の財産が違和感を捉える。だから移ろいゆく自分の心と身体に合った修正方法を常に見つけることができる」と小田教授は話す。

 それはこんな言葉に表れる。シーズン最多安打など金字塔を打ち立てるたびに、今後何を目指すかを聞かれると「明日ヒットを打つこと。これだけを考えています」と語る。

 イチローという身体と心は、明日でも外見上は同じに見える。しかし、動物、生命としてのイチローは一晩寝たら別人になっていることを知り尽くしている。

 こうした考え方は、生命体の本質である「動的平衡」に相通じるものがある。

 生命体は、食事などによって身体に不可欠な成分をとりこみ、それを材料に各細胞は一定期間ごとに常に入れ替わっている。老廃した細胞は破壊され去っていく。数カ月では物質としては完全に入れ替わる。生命は日々変化しているという哲学的ともいえる現象だ。

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