2024年11月21日(木)

イノベーションの風を読む

2016年8月19日

アイデアの是非を顧客に問うという間違い

 スタートアップがインターネット上で自らのアイデアを紹介し、それを実現するための資金などを賛同者から調達することができる仕組みをクラウドファンディングと呼ぶ。資金提供者の意識は、投資するというより、まだ完成していない商品を安く購入予約するというものだろう。ソニーであれば、お金を払ったのに商品が完成しないというリスクもない。ソニーの目的は資金調達ではなくアイデアの是非を顧客に問うことのようだが、クラウドファンディングはビックアイデアには適していない。

 シリコンバレーのベンチャーキャピタル、Yコンビネータの共同創業者のポール・グレアムは、良いアイデアは最初バカげたものに見えると言っている。新しいプロダクトを生み出した人は、他の人が気づいていない問題に気づき、自分がほんとうに欲しいと思うものを自分でつくった。ほとんどの人がその価値を認識していないアイデアこそが最高だと。

 そのバカげたものが本当にバカげたものなのか、ビックアイデアなのかを見極めるのが、ベンチャーキャピタルの腕の見せ所なのだが、彼らも鉄砲を数多く撃ちまくってきたというのが実際のところだろう。スタートアップの文化では、それを確かめるために早くプロダクトをつくって市場に投入しろと言われる。そのプロダクトが市場にまったく受け入れられなければ、それが「実際にバカげている」ものだったことがわかる。ポール・グレアムによると、スタートアップが成功する確率は僅か7%だという。

 企業内で新製品の開発や事業化の是非を問う企画会議では、それが既存の自社製品の延長線上のもの、あるいは自社にとっては新規事業でも、すでに競合製品が市場に存在するものであれば、承認者が企画提案の内容を理解し判断することは難しくない。

 しかしその企画が、まだ自社にも市場にも存在しない画期的な製品(またはバカげたもの)の開発や事業化である場合、その是非の判断は難しく、勘やセンスや想像力、あるいは企画提案者を信頼して任せられるかなど、承認者の器量や度量に依るところが大きい。多くの場合、それらを持たない承認者によってバカげたものとして退けられてしまう。その企画が大きな投資を必要とする場合は、何人かの承認者の壁を乗り越えなければならない。  


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