生野銀山の支配を見越して銀を高く設定しておき、銀山から産出される銀を市場に出せば、信長の懐にはなんと25%も余分な利益が入ってくるではないか。これこそが信長の目論見だったのだ! まさに為替介入、そのうえインサイダー取引の走り。銀山支配・市場管理の当事者みずからが実行すれば、うまく行かないわけがない!
ところがどっこい、これがそううまくはいかなかった。生野銀山の運営に関わる但馬国の領主たちがサボタージュし、採掘された銀を信長にほとんど納めなかったのだ。
「今も滞納しているのはけしからぬ。必ずや速やかに究明してくれるわ」
信長は書状でこう叱責しているが、こめかみに筋を浮かせて怒る姿が想像できるようだ。
ちなみに、但馬の領主たちは毛利氏に通じるなどして逆らい続け、信長が生野銀山を完全に支配したのは数年後のことだった。
資金が無くとも上洛してその名を全国に知らしめた織田信長。彼の手法は、ベンチャー企業を設立して何とか上場せんとする経営者たちにも重なる。ただ、無理な資金調達はいずれ限界がくる。なんとも難しいものである。
参照文献:『増訂 織田信長文書の研究』(奥野高廣、吉川弘文館)、『読史備要』(講談社)、『信長公記』(角川ソフィア文庫)、『群書類従 合戦部』(続群書類従完成会)
(イラストレーション・井筒啓之)
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