Wedge REPORT

2016年10月6日

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自衛隊の海上輸送力全般の強化に向けて

 それでは、自衛隊の海上輸送力全般の強化のためにはいかなる追加的な措置が必要であろうか。ここでは、海上輸送力が不可欠となる三つの場面、すなわち南西諸島防衛、朝鮮半島での有事対処及び大規模災害対処を通して考えてみる。

 まず南西諸島防衛では、陸上自衛隊の部隊等を侵攻が予想される島嶼に事前に展開して抑止態勢を構築することが重要であり、この際に海上輸送力が果たす役割は大きい。しかし、ここで問題となるのは、南西諸島において「おおすみ型輸送艦」などの大型艦船が接岸できる港湾を有するのは屋久島、奄美大島、沖縄本島、宮古島及び石垣島に限られることである。このため、これら以外の島嶼に部隊の車両等を揚陸する際には、沖合に停泊した「おおすみ型輸送艦」から発進するLCACで島嶼との間をピストン輸送することになる。

 しかし、LCACは構造上、車両を揚陸できる場所は海岸に限られ港湾(岸壁)への揚陸はできない。また、宮古島以南の島嶼の多くはほぼ全周をサンゴ礁で囲まれており、LCACが車両を揚陸できる海岸も限られる。LCACでの揚陸にはこうした制約があり、部隊の展開完了までに時間を要するおそれがある。なお、自衛隊が保有する「輸送艇1号型」でも岸壁への車両の揚陸はできない。ここから、自衛隊が岸壁への車両の揚陸も可能で、九州から南西諸島全域を迅速にカバーできる高速性と長い航続距離を有する新たな中型輸送艇を自衛隊が保有する必要性が浮上する。こうした中型輸送艇を多数保有していれば、「おおすみ型輸送艦」及びLCACとの併用で迅速に部隊を揚陸可能となり、必要に応じて住民の避難も迅速に実施できる。

 次に、朝鮮半島での有事対処について考えてみたい。最近の北朝鮮の姿勢は度重なる核実験や弾道ミサイルの発射に見られるように強硬さを増している。このため、万一の際に韓国に在住している邦人(約3万7000人)及び旅行中の邦人の日本への退避を想定しておく必要がある。また、韓国に所在している邦人以外の外国人についても、最も近い日本は退避先の筆頭になるであろう。この際、海路での輸送については、危険が伴う状況であれば民間船舶を使用できる保証は無く、海上自衛隊や海上保安庁あるいは米海軍の艦船に依存せざるを得ない。

 しかし、朝鮮半島が有事となれば日本周辺における警戒・監視、ミサイル防衛、米軍に対する後方支援等が必要となり、現状では邦人等の輸送に割ける艦船の隻数は限られる。したがって自衛隊が多数の中型輸送艇を保有することの意義は大きい。この際、当該輸送艇は退避作戦のテンポを速めるための高速性と長い航続距離を有し、併せて邦人等の集合場所に適する比較的大きな港湾でも人員を乗降させ得ることが望ましい。

 また、大規模災害の直後に被災地付近の陸上交通が途絶することは、東日本大震災などの事例から明らかである。したがって、四面環海の日本では海からの救援を今以上に重視する必要があることは論を待たない。この際、瓦礫除去のための重機や救援物資を積んだ車両を、直接、被災地の海岸や小規模港湾の岸壁に揚陸できる中型輸送艇は、被災直後の厳しい環境下にある被災者に救いの手を差し伸べる上で価値が高い。この輸送艇に関しても、救援のテンポを速めるための高速性と長い航続距離は不可欠である。

 なお、既に述べた「はくおう」、「ナッチャンWorld」及び「いずも型護衛艦」は陸上交通の復旧状況に応じて被災していない港湾に大量の物資や車両を揚陸し、救援活動を支援できる。このように、南西諸島防衛、朝鮮半島での有事対処及び大規模災害対処のいずれの場面を眺めても、「高速」で「長い航続距離」を有し、「海岸でも岸壁でも」車両等の乗降が可能な中型輸送艇が自衛隊の海上輸送力全般の強化に寄与すると考えられる。

 ただし、自衛隊が多数の中型輸送艇を保有する上で、要員の確保は最大の課題である。近年、防衛予算はようやく縮減傾向を脱したが、自衛隊の隊員数については基本的に抑制傾向が続いている。こうした状況では輸送艇を運用する新たな部隊を創設することはできない。日本周辺の情勢が緊迫の度を増している今日、日本の防衛を全うするためには輸送艇の要員を含めて隊員数の純増は不可避である。とはいえ、輸送艇の要員確保がどうしても難しい場合には「はくおう」や「ナッチャンWorld」の場合と同様に、中型輸送艇を保有する特別目的会社を設立し、予備自衛官を乗組員にして災害以外の緊急時でも自衛隊を輸送できる態勢を構築すべきであろう。

  
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