カフェの入り口にあえて「10cmの段差」を作った理由
初瀬:この『みのりcafe』は患医ねっと㈱の活動拠点としても活用されているとお聞きしています。
鈴木:このカフェでは夜貸し切りにして小規模なイベントを行っています。最近は医療系に限らず、人と人を繋いで情報交換をするイベントも行うようになりました。
このカフェを使いたい理由があるんです。僕がこうした体なので車椅子を使う友人が多いのですが、入り口付近にわざと10cmの段差を作ってあります。彼らは「バリアフリーじゃない」という理由でなかなか外に出ようとしないのですが、「鈴木の店なら来てくれるよね」と誘うと来てくれるんです。ここまで来れたら「ほらね、なんとかなったでしょ」と言ってあげたい。
この段差の意味はバリアを越える体験のひとつなんです。二分脊椎の車椅子の人たちに、「10cmくらいなんでもないよ」と感じてほしいし、伝えてあげたいと思いました。障害がある私がお店を開くことによって段差を設ける意味が出てきます。
『患者スピーカーバンク』が縁なのですが、ある車椅子の人はヘルパーがいっしょじゃなければ外に出ないという感じだったのですが、今ではふらっと一人でこの店に来るようになりました。それって嬉しいですよね、自立されたんです。
自分がやりたいなら、そこに行きたいなら、段差なんて理由になりませんよ、越えられますよ。自分がやりたいかどうかだけですよ。行きたければ、どうしたら行けるのか、その手段を考え出すだけです。
初瀬:バリアなんてものはその本人がどう考えるかですからね。障害にはいろいろあるんだから、この社会から全てのバリアを無くすなんてことはありえない話です。どうやったらバリアを克服できるか考えて行動すれば、必ず手を貸してくれる人が現れますし、良いアイデアが浮かんでくるものです。
でも、障害者を取り巻く人たちは「10cmの段差なんてなくせ!」と言う人たちが多いでしょ。「あれが悪い、これが悪いって」と言い過ぎて、前向きな感情ではなくなってしまうんですよ。ポジティブな話が出てこないと前には進めません。
だから講演では、心のバリアフリーの話しかしないんです。障害を理解してもらって、手伝ってくれる人が増えるほうが社会は明るくなりますよ。本人もその方が生きやすいし楽しいでしょ。
鈴木:まさにそこですね。たとえばの話ですが、車椅子の方は段差のないルートを探すことよりも、出掛けたときに、デートしているカップルを見つけて声を掛けることです。介助してもらいやすいですからね。デートだから時間はあるし、男はかっこいいところを見せたいですからね(笑)。そういうことを障害者は知ることです。明るく積極的にいきましょうよ、そうすれは必ず楽しくなります。