2024年11月23日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年3月3日

幻に終わったオバマ・人権派弁護士の会見

 もう1つは、人権派弁護士と米大使館、そして公安当局の間で繰り広げられた攻防であるが、これはあまり知られていない。

 「オバマ大統領は、中国の人権派弁護士と会見することを望んでいる」

 こう北京の米大使館から11月17日夜に連絡を受けたのは江天勇弁護士だ。訪米して中国の人権問題を提起するなど米側と交流があった江氏に対して大使館が連絡してきたのだった。江氏が当時の様子について筆者にこう語る。

 「私を含めた5人の弁護士は18日午前、米大使館に向かった。大使館は会議中で中に入れない。当時、周辺はまだ危険ではなかった。しかしその後、なぜか知り合いの警察官が来て『あなたたちは入れない』と呼んでいる。そして我々は連れて行かれた」。

 「オバマ大統領と会っていたら何を話す予定だったか」と筆者が質問すると、江弁護士はこう答えた。「まず公開で人権問題について議論してほしい。そして第2に民間を重視してほしい。米中人権対話が始まるが、この対話に民間の人を参加させてほしい」。

 オバマ大統領との面会を阻止された埋め合わせとして、江をはじめ弁護士5人が、中国通のハンツマン駐中国大使から米大使館に招かれたのは12月9日だった。この時は公安の邪魔なく会見は行われたのだった。

 いずれにせよ「報道自由」「人権重視」を示そうとしたオバマの2つの演出はいずれも中国側の圧力で挫折した。人権派弁護士・李方平氏は「現在の中国は既に過去の中国とは違う。中国の対外的影響力はどんどん大きくなっている」と解説する。中国にとっては人権問題で圧力を加える米国は恐い存在でなくなっているのだ。

発言権強める中国の自信
背景には米国の弱腰

 忘れてはならないのは、特に08年秋の金融危機以降、中国を取り巻く国際社会の関係が変化したことだ。オバマ大統領が中国の人権問題に「物言わぬ」対応を取ったという米国の対中政策の変化。さらに一党独裁下で高度成長を持続させることに成功し、国際社会で「話語権」(発言権)を強める中国の自信。

 胡指導部は、こうした変化を「好機」ととらえ、人権・民主問題で自国の価値観を押し通し、この問題では妥協しない断固たる姿勢を国際社会に誇示しようとした。その結果として見せつけたのが、劉暁波氏への懲役11年という厳罰だったというわけだ。

 オバマ政権が中国を甘く見すぎた面は否めない。これを修正するかのように、今年に入ってグーグル問題、台湾への武器売却、チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世との会見などで、対中強硬姿勢に転換しているが、劉暁波への厳罰はいわばオバマ政権の対中政策失敗の結果とも言えるのだ。


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