一方で共産党・政府は、インターネットを武器にした人権派弁護士が「団結」を強めていくことに神経を尖らせている。実際に08年9月、有害物質メラミンが混入された粉ミルクを飲んだ乳幼児ら30万人に健康被害が出た事件では全国の弁護士124人による「ボランティア弁護団」が結成された。全国各地の社会問題に一定数の人権派弁護士が当局の圧力を受けながらも介入し、弱者を支援するケースが増えているのだ。
これに対抗するため、司法当局は一部人権派弁護士に対し、「年度考核(年度審査)」で弁護士資格を更新できないよう制裁を加えている。08年秋に北京市弁護士協会執行部選出を直接選挙で行うよう呼び掛けた弁護士や「08憲章」に署名した弁護士らが対象となったが、この中に入った唐吉田、張立輝両弁護士は筆者にこう懸念を隠さない。
「合格しなくても資格を取り消されるわけではないが、通らないと裁判に参加できない。許可されない弁護士の規模は大きく、期間も長くなり、やり方も巧妙化してきている」。
日本の制度に関心を寄せる
中国の人権派弁護士たち
米国や欧州諸国は、こうした迫害を受けながらも、社会的弱者の救援のために立ち上がる人権派弁護士を支援し、中国の人権・民主問題を前進させようとしている。一方、日本政府はどうだろうか。ある北京の体制外知識人はこう指摘する。
「劉暁波氏の公判に欧米諸国からは10カ国以上の外交官が裁判所まで来て判決に抗議する声明を出したりした。しかし日本の外交官の姿はなかった」
前出・李方平弁護士は「日本政府は基本的に中国の人権問題に注目していない。日本は西側国家の例外だ」と批判する。
しかしその一方で、複数の人権派弁護士は筆者に「日本の政治は不安定なのに、どうして社会は安定しているのか」と語り、日本の議会制度や司法制度に関心を寄せている。これら弁護士の多くは欧米諸国には訪問したことはあるが、日本に行ったことはない。彼らにとって民主国家・日本の制度は良い参考になるのではないだろうか。
◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新 : 毎週水曜
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