米中関係が緊張しても
妥協しない胡錦濤指導部
中国指導部はかつて、米中関係が緊張した際、大統領の訪中や国家主席の訪米などに合わせて民主活動家の釈放を通じて対米配慮を示してきた。しかし胡指導部は以前の江沢民時代と違い、人権・民主問題で妥協することはなくなっている。
劉氏の起草した「08憲章」でも断固たる対応を見せた。多党制や党内派閥容認、司法の独立などを訴える改革派学者として知られる賀衛方・北京大学法学院教授は、09年から新疆ウイグル自治区石河子の大学に行くよう命じられたが、08年12月、「08憲章」の第1次署名者303人に名前を連ねたことが原因だった。籍は北京大のままだが、派遣期間は2年間に及ぶ。
その賀教授は筆者にこう打ち明けた。「北京大学としてもやるべきことはやっていると当局に示すための措置だろう。さらに敏感な年である09年(チベット動乱50周年、天安門事件20周年、建国60周年)の活動に私を参加させないため、北京大学は私を守ろうとしてくれているのだ」
胡錦濤が恐れるのは米国ではなく「民怨」
共産党はこれまで、人権・民主問題を推し出す動きや、人権派弁護士らによる「維権」(権利擁護)活動に対し、「引き締め」と「緩和」というサイクルを繰り返し、国内の安定を重視するとともに、西側諸国に「開明的」な面もアピールしてきた。例えば、新型肺炎(SARS)による情報公開が問題となった03年や北京五輪が開催された08年8月前後は、情報統制が「緩和」された。政治的に敏感な年で「引き締め」が強化された09年も、建国60年(09年10月)という峠を越えれば、再び「緩和」へと向かうとの楽観論もあったが、そうはならなかった。「引き締め」はより一層強まっているのだ。
李方平弁護士にもう一度登場してもらおう。「大量の群体性事件(抗議・暴動)は中国政府にとって圧力になっている。どんどん多くの人が今、政府に抗議している。中国政府にとって圧力と言えば、以前なら西側諸国からだった。しかし現在の圧力は内部からだ。内部からの圧力は増大している」。
胡主席が恐れているのは、もはや「人権大国」米国ではなく、今や「民」の怒り、というわけだ。
蓄積する「民」の怒りのマグマは大爆発寸前
「中国の矛盾と困難はその規模でも複雑性でも世界中で類を見ないものだ」と胡主席自身が認めるように、年間約10万件に上る群体性事件や、年1000万件を超える陳情など、社会の底層には「民」の怒りのマグマが累積し、いつでも大爆発する危機的状況にある。共産党一党独裁下で権力をつかむことは強者への近道だ。資本家は権力にすり寄ろうとし、権力と資本が結託して「権貴階層」を形成する。一方で特権もコネもなく、いつまでもはい上がれない「底層民衆」はインターネット上で日々、「仇富」(金持ちを憎む)感情を爆発させる。中国の「安定」は、公安当局による暴力と、宣伝当局による情報統制で塗り固められた表面上のものにすぎない。
「社会矛盾はどんどん激烈になっていく。だから我々のような弁護士が社会から必要とされている。(人権派弁護士の)数も多くなり、北京では少なくとも50~60人に達する。そして弁護士同士の連携も緊密になっている」。李方平弁護士はこう明かした。