2024年12月22日(日)

WEDGE REPORT

2016年10月22日

 大リーグはワールドシリーズ進出を賭けたプレーオフが佳境に入っている。18日(日本時間19日)現在、ナ・リーグはカブスとドジャースが、ア・リーグはインディアンスとブルージェイズが熱戦を繰り広げている。その一方で、ここまで生き残れなかったチームは、深まりゆく秋に来季への戦力整備を急いでいる。その中で、イチローが所属するマーリンズが、公式戦終了後早々に動いたのは周知の通りだが、今回の契約から見えてくることがある。

 シーズン途中から、マーリンズ首脳からはイチローとの再契約を前向きに捉える発言が聞かれ、現場にいる日米の記者たちは既定路線と受け取っていた。それが明らかになったのは、公式戦が終了して3日後の10月5日。マイケル・ヒルGM兼編成本部長がイチローとの契約更新を発表した。昨オフに結んだ契約に付帯した17年(年俸約2億円)の球団選択権を行使したわけだが、新たな契約にも18年がオプション(球団選択権)として付けられた。今月22日に43歳になる偉大な打者に、最大限の敬意を払う意志が反映された契約である。

 昨季より出場は10試合少ない143試合ながら、安打は4本多い95本。打率は2割2分9厘に終わった昨季から、今季は10年以来最高の打率2割9分1厘とイチローは巻き返した。それも、昨季と同じ控え外野手として不規則な起用法に苦しみながら出した数字だ。

 同席したサムソン球団社長はややこわばった声音で言った。

 「私は、イチローから起用法への不満を一度も聞いたことがない。常に準備をして出番を待っている。イチローは50歳までプレーしたいと真顔で私に言った。毎年(途中離脱なく)クリアしている彼ならやるだろう」

 体力、技術の両面で陰りは見えず、一貫して崩さない日々の取り組み方は、若手選手の模範的な存在である。イチローが本気で描く「50歳で引退」をマーリンズが真剣に後押しするのもなんら不思議ではない。もちろん、この先、不測の事態が生じる可能性はある。球団が「19年は(現段階で)未定」とするのはその勘案であろう。しかし、イチローに現役続行の意欲がある限り、受け皿はずっとマイアミにある。

偉業と悲劇がもたらしたもの

 今夏に、米野球殿堂入り当確ラインとされる3000安打をクリアしたイチローの存在は、93年の創設から2011年までのフロリダ・マーリンズ時代を含め、未だ殿堂入り選手を輩出するには至っていない球団に付加価値を付けるのは当然である。サムソン社長は「殿堂入りする選手が、マイアミでプレーしてくれることは、とても誇らしいことだ」と素直な気持ちを言葉にする。選手として威厳を醸す人品骨柄に大記録を携えたイチローを手放すことはあるまい。ローリア球団オーナーも「マイアミにこれほどマッチするとは思わなかった」と、想像以上の存在価値を実感している。

追悼のメッセージボード

 一方で、マーリンズは米球界の至宝と謳われていた、キューバ出身の剛球右腕ホセ・フェルナンデスを失った。

 シーズン最終盤の9月25日未明、友人二人と乗ったフェルナンデス所有のボートが猛スピードで消波岩に激突。才器は24歳の若さであっけなく散った。2年後のFAで複数年の200億円越えは堅いと見られていた逸材は、マウンドで闘志をむき出しにしたが、陽気で、無邪気で、そしてちゃめっ気たっぷり。ファンの圧倒的な支持を得ていただけではなく、キューバ系移民が多く住み「北のハバナ」と別称されるマイアミで、その生き様は人々の共感を呼んでいた。

 キューバからボートに乗り3度試みた亡命はいずれも失敗。米湾岸警備隊に捕まり強制送還された。刑務所にも入ったが、敢行した4度目で遂に夢にまで見たアメリカにたどり着いたのだった。事故が起きてから、サムソン社長がメディアに向けて何度も繰り返していたのが、この言葉だった。

 「ホセは自由への可能性を象徴する存在だった」

 キューバ系移民の人々は、マウンドで夢を開花させたその姿に自らの人生をだぶらせていたのである。


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