2024年12月10日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年12月22日

 11月22日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、マーティン・ウルフ同紙主任経済コメンテーターは、トランプでも今日の貿易の現実を害するような無暗な挑戦は出来ないであろうと述べています。論説の要旨は次の通りです。

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 トランプはTPPからの離脱を言明したのに対し、習近平はRCEPを推進することを表明した。しかし、世界貿易において中国が西側はもとより米国を代替することには限界がある。即ち、購買力の指標としてGDPのシェアを見ると、中国のシェアは2016年に15%、アジアは31%、米国とEUを合わせて47%である。同様に、輸入のシェアを見ると、中国のシェアは2015年に12%であるのに対して、アジアは36%、米国とEU(EU内の貿易は除く)を合わせて31%である。

 ジュネーブ高等研究所のリチャード・ボールドウィン教授は「The Great Convergence」という本で、第二のグローバリゼーションという今日の貿易の性格を解き明かしている。彼によれば、貿易は常に輸送とか通信という距離のコストによる制約を受けて来た。19世紀後半の第一のグローバリゼーションでは、貿易の急速な拡大は物品の輸送コストの低減によってもたらされた。しかし、この時代には製造プロセスを分解することは不可能であった。一国は全ての必要なスキルを習得せねばならなかった。その結果、製造と、これに伴う規模の経済と経験による学習とから得られる成果は高所得経済に集中することになった。そして、それなりの技能を有する労働者もこれらの成果を共有し、前例のない所得と政治的影響力を達成した。

 しかし、第二のグローバリゼーションでは通信コストが大幅に下落したために、製造プロセスを分解することが可能となり、部品の製造と最終組み立てが世界中に散らばることになった。殆どの途上国経済はこの機会に乗り遅れた。しかし、幾つかの国、特に中国はこの機会を利用することに成功した。

 トランプの勝利は、この新たな貿易の原動力が惹起した保護主義によるものである。政治的闘争は高所得経済の企業が開発したノウハウの恩恵を誰が得るのかにある。トランプは米国企業の所有者や経営者よりも米国の労働者を優先するのであろうか。TPPを拒否し、NAFTAを交渉し直し、中国を関税で脅すという振りをしながら、実は世界貿易は大方そのまま維持するのであろうか。実はトランプも世界貿易を中国の手に委ねることは米国の利益に反するとの結論に到りはしないか。トランプも生産の世界的な分解の状況にあって米国の役割を制約することで米国の企業が不利になり、その活動が流出することを怖れることになりはしないか。

 幸いにして、世界貿易を支持する力は依然として強い。トランプといえども貿易を動かす力にことごとく歯向かう能力や意思はないだろう。

出 典:Martin Wolf‘Donald Trump faces the reality of world trade’(Financial Times, November 22, 2016)
https://www.ft.com/content/064d51b0-aff4-11e6-9c37-5787335499a0


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