2024年4月25日(木)

解体 ロシア外交

2017年1月10日

 だが、ロシアの介入を否定しているトランプも、一定の厳しい姿勢をもって本問題に向き合っているとも言える。トランプは6日、前述の報告書を受けて、サイバー攻撃に対抗するための特命チームを発足させると発表した。特命チームの任命は、米露接近への批判を和らげるための隠蓑だという評価もあるが、1月20日の自身の新政権発足から90日以内に、特命チームに対して「米国の安全を守るための方法、道具、戦術」を提案させると述べた。

 また、トランプは、米国家情報長官にダン・コーツを任命した。コーツは、インディアナ州選出の上院議員だったが、駐ドイツ大使や上院情報特別委員会の委員を務めるなどの経歴を持っており、本職には適任だとみなされている一方、2014年のロシアによるクリミア併合を受けて米国が課した制裁に対する報復措置としてロシアがブラックリストに載せた米議員6人と米政権幹部3人のうちの1人でもあって、かねてよりロシアに対する厳しい制裁を主張してきた。今後、トランプが国家情報長官の権限を縮小する可能性もささやかれてはいるものの(実際、米国の『ウォールストリート・ジャーナル』紙は、トランプが国家情報長官室の再編と規模縮小を検討中だと報じている)、対露強硬派をこのようなセンシティブな問題の責任者に据えたということには一定の意味がありそうだ。

ソ連時代から続く様々な工作

 このように、ロシアのサイバー攻撃が米国大統領選挙に影響を及ぼしたかどうかについては、明確な答えが出ていないのが実情だ。しかし、ロシアが様々な形で情報戦を駆使してきたのは間違いない。ロシアが米国選挙に際して情報によって影響を与えようとするのは、ソ連時代から続いてきたことであり、決して新しいことではない。ソ連時代から、スパイ、エージェント、報道機関、プロパガンダなどを用いて、様々な工作をしてきた。

 そして、そのような工作が行われたのは米国に対してだけではない。大きな影響が出たものとして、2007年のエストニアに対するサイバー攻撃、2008年のロシア・ジョージア戦争時のジョージアに対するサイバー攻撃、2016年のウクライナの送電線に対するサイバー攻撃など、いわゆる反ロシア的な勢力に対し、様々な形でサイバー攻撃を仕掛け、実際に大きな影響を与えてきた。

 特に、2011年に制定された14ページからなる「情報空間におけるロシア軍の活動に関するコンセプト」が制定され、公にされてからは、ロシアが軍事政策の一部としてサイバー戦を重視していることが明確になった。さらに、2012年には、ロシア軍の指揮完成システムと軍事ネットワークを防衛するために「サイバーコマンド」を新設することも表明している 。このようにサイバー戦は、ロシアの軍事戦略の中の重要な一極を占めているのである。


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