解体 ロシア外交

2017年1月10日

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ウクライナ危機でも「活躍」した「トロール部隊」

 そして、ロシアのサイバー戦はハッキングなどにとどまらず、多様である。その筆頭にあげられるのがデマを拡散する「トロール部隊」である。ロシアのプロパガンダ戦は「RT(旧称:ロシア・トゥデイ)」や「Sputnik(スプートニク)」(日本語版もある)に代表される政府主導の対外多言語メディアによる宣伝活動にとどまらず、インターネット上の情報操作などによっても進められてきた。

 対外多言語メディアの活動はかなり巧妙で、たとえばRTなどは米国メディアを装って虚偽の報道まで行うなど、効果的にプロパガンダを拡散させているという。米国大統領選挙戦の最中に、クリントン候補が慈善事業の名目で集めた資金を100%私的に流用したという報道が流れたが、それを動画で配信したのもRTだとされる。

 また、インターネット上の情報操作は、ロシア政府は否定しているものの、専門の職員が雇われて、365日・24時間体制でなされているようだ。職員は、毎日、担当するテーマを与えられ、30〜40の架空の人物になってIDを使い分けながら、ブログやツイッターで情報を拡散したり、SNSにも虚偽情報を大量に書き込んだりしているという。コメントの投稿のノルマも1日200コメント以上だという話もあるし、注意を引くために効果的な動画や画像を作成する部隊もあると聞く。これらの部隊は、政府の直轄で動いていると言われている。このような情報作戦の拠点として明らかになっているのがサンクトペテルブルクであるが、他にもあるのではないかという説が濃厚だ。

 このようなトロール部隊は、特にウクライナ危機の時に顕著な仕事をしたという。有事の際には、特にトロール部隊が増強されているようである。ウクライナ危機で有名になったロシアの「ハイブリッド戦争」、つまり、伝統的な軍事力の行使に併せ、サイバー攻撃、世論操作、工作員の隠密行動、政治要員の送り込みなどの非軍事手段を効果的に用いる21世紀型の戦争において情報戦が果たしている役割は極めて大きい。

世界中で行われているサイバー攻撃への対策を

 このように、ロシアのハッカー攻撃や情報戦略はロシア政府が重視している戦略であり、実際に大きな影響を持ってきた。米国大統領選挙にも多少の影響があったことは間違いなさそうだ。だが、米国国家情報長官の報告書がいみじくも結論づけているように、ロシアの情報戦が米国の選挙に決定的な影響を持ったとはいえないのが実情だ。だが、その事実がむしろ、米国の国内政治にも利用されている。そうなると、オバマ政権も実際にロシアの情報戦の意味をどの程度に捉えているのか、外からは把握しづらい。

 それに、サイバー攻撃を行ってきたのはロシアだけではない。中国も多数のサイバー攻撃を行ってきたし、今回ロシアを批判している米国もイランなどにサイバー攻撃を行ってきた。そうなると、サイバー攻撃というものが、対外的な影響を与えうるという事実に、全世界が脅かされているという現実を直視し、共同の対策を構築する努力をするほうがむしろ賢明ではなかろうか。

  
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