ビバリーヒルズコップ
ラストベルトは別名、「ソルトベルト(塩地帯)」とも言われるらしい。冬になると、道路の凍結防止のため、大量の塩をまく。実際に走ってみると、前を走る車が上げる塩水のしぶきがフロントガラスにかかり、しばらくすると塩が固まって前が見えなくなる。環境のことをあまり考えていない人が多いのだろうかとも思うが、自動車はこの地域の人にとって唯一の交通手段であり、その交通網を維持することは必須なのだろう。電気自動車やエコカーよりも、大きくてパワーのある車のほうが、こうした地域では頼りになる。
ラストベルトのなかで日本人に少し馴染みがあるとすれば、「デトロイト」だろう。映画『ビバリーヒルズ・コップ』で、エディ・マーフィ演ずる、アクセル・フォーリー刑事も、デトロイトの警官だ。1980年代の映画だが、環境や人権意識の高いカリフォルニア州の町(ビバリーヒルズ)と、ラストベルトの町デトロイトの違いがよく描かれている。デトロイトは、自動車の町として知られる。日本車やドイツ車に追い抜かれるまでは、デトロイトのビック3(GM、フォード、クライスラー)が世界の自動車産業をリードしてきた。太平洋戦争中には、デトロイトの町が航空機生産に協力することで、打倒日本に貢献したという。
鉄の町ピッツバーグの変貌ぶり
同じくラストベルトにあり、鉄の町として知られるペンシルベニア州ピッツバーグ。世界No.1の製鉄会社だったUSスチールのお膝元だ。そのピッツバーグに衝撃が走ったのが、1970年に八幡製鉄と富士製鉄が合併して新日本製鉄が誕生したときだったという。ピッツバーグ大学のクリストファー・ブリム教授によれば「どうして資源のない日本で製鉄が盛んになるのか?」と、ピッツバーグでは衝撃を持って受け止められたという。それからピッツバーグでは、「鉄冷え」の時代を迎え、1980年代には20万以上の人口を失った。
デトロイトにしても、ピッツバーグにしても国際競争力にさらされることで基幹産業が競争力を失い、関連産業へも波及し、雇用が失われて町が衰退した。そして、ラストベルトと呼ばれるようになった。
とはいっても、実はピッツバーグのような地方の中核都市はすでに復活を遂げている。鉄鋼で失った雇用は、教育など新たな産業を興すことで取り戻した。ただし、30年近くかけて。今では全米住みたい町ランキングでも、上位に顔を出すほどまでに。実際、町の中心部は夜中まで多くの人で賑わっている。詳細は次の機会に書くが、「犯罪都市」とまで言われ、財政破綻したデトロイトですら、復活に向けて動き出している。