「何が起きているんだ?」。クリントンの不人気は聞いていたが、まさかひっくりかえるとは……。トランプが大統領選挙に勝利した後、自分たちで現場を見てみなければ分からないと、現地取材の準備を急いだ。
現地出発直前の昨年12月初旬、大手出版社主催の「トランプ大統領誕生」についての講演会に参加する機会があった。会場は満席で、やはり関心は高い。「多くの日本人にとって、アメリカといえば、ニューヨーク、ワシントン、ロサンゼルス、サンフランシスコのことで、日本に入ってくるアメリカの情報は東海岸と西海岸だけ」だと、登壇した著名評論家は言った。今回、「日本人が知らない」その場所こそがトランプ大統領を生み出した震源地となった。
メキシコ移民のおじさんがトランプに投票した理由
成田、シカゴと乗り継いで最初に降りたのは、オハイオ州クリーブランド。バスケットボールが好きな人なら、昨年NBAを制覇したクリーブランド・キャバリアーズと、大スターであるレブロン・ジェームズを知っているだろう。
かつて鉄鋼と自動車産業で栄えたが、現在は医療などへ産業転換を図っている。町の中心部は空き店舗が目立つ一方で、新しい店舗も生まれており、再生への途上にあるといった感じだ。
町の食堂で、中年男性から「日本人か?」と声をかけられた。「日本人の友達がいる」、ということから話が弾み、そのまま、トランプ談義になった。メキシコからの合法移民で、ケミカル関係の仕事をしているらしい。なんと、このおじさん、メキシコ人であるにもかかわらず、トランプに投票したという。横で聞いていた友達が、「え!? ほんとなの?」と、「その証言を記録しておくからな」と、iPhoneで動画を撮り始めた。
おじさんがトランプに投票したのは、トランプの「What(何が問題かという指摘)」は正しいからだそうだ。つまり、不法移民の存在事態は、問題であり、放置しておくべきではないと。ただし、トランプの「How(どうやって課題を解決するのか?)」というところには問題があるという。いくら、国境に壁を築いたとしても、自分のように、移民は色々な手段を使って流入してくるものであり、それを止めることは難しい。
そうこう話していると、近くにいた白人女性が「私の意見をここに書いたの」と言って、レシートの裏に自分の意見を書いて持ってきてくれて、議論に参戦してきた。彼女は非常にリベラルで、トランプは許せないという。そうすると今度は、70歳近いんじゃないかという黒人のおじいさんもやってきて、やはり、トランプは人々を分断すると嘆いた。皆に共通していたのは、クリントンは嫌いということだった。