オトナの教養 週末の一冊

2017年1月27日

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東嶋和子 (とうじま・わこ)

科学ジャーナリスト・筑波大学非常勤講師

元読売新聞科学部記者。フリーランスで環境・エネルギー、医療、生命科学、科学技術分野を中心に、科学と社会のかかわりを取材。主著に『名医が答える「55歳からの健康力」』(文藝春秋)、『人体再生に挑む』(講談社)など。新著に『水も過ぎれば毒になる 新・養生訓』(文春文庫)

中東、アメリカ、アジアの「三角形」と日本

 三井物産では「何の因縁か」、原油の採掘権を求めて社運を賭けたイランでの巨大石油化学プロジェクトに関わることに。今後のイランについての情報を収集するよう命じられた著者は、アメリカで5人の中東専門家に会って「血の気が引いていく」ほどの衝撃を受けた。

 「アラブの利害というフィルターを通した情報」に偏り、「ユダヤ(イスラエル)からの情報はまったく閉ざされた状況にあった」ため、「歪んだ情報過疎地帯に置かれ、中東情勢の地殻変動リスクに気づかぬまま」、中東での巨大プロジェクトに突き進んでいたことがわかったからである。

 それからは、イスラエルでユダヤ筋とのチャネルを作りつつ、史跡を訪ね歩き、人と話をして「イスラエルとユダヤ民族の理解に努めた」。

 ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地が半径500メートルの中にひしめくエルサレム旧市街を訪ねたときのエピソードをはじめ、どの話も興味深い。

 91年から97年には三井物産ワシントン事務所長として湾岸戦争を体験した。ソ連崩壊後の極東ロシアで天然ガスを開発する「サハリンエネルギー開発プロジェクト」では、ワシントンのロシア大使館で調印式に立ち会った。

 <炭鉱で生まれ、石油によって人生を方向づけられた男が、中東を動き回り、そして日米露の三国が関わる巨大な天然ガス開発のスタートを目撃することになった因縁を想い、調印の席での私の感慨は深かった。>

 こうした自身の経験が、中東とアメリカとアジアを結ぶ三角形で、日本の位置と相関させてものを考える「知的三角測量」と呼ぶ情報活動につながっているという。

日本が独自に取りうる外交戦略、エネルギー戦略

 アメリカの中東戦略は失敗の歴史だった、さらにさかのぼれば、中東の現代史は大国の横暴の歴史そのものだった、と著者は語る。

 2016年はサイクス・ピコ協定から100年の節目の年だった。第一次大戦後、オスマン帝国を解体した欧州列強の英仏が、中東に欧州の利権を確立するために地図上に引いた線が、その後の中東の国境線の基礎になった。

 「中東の民族の歴史には何の言われもない”国境”が、イギリス、そしてアメリカの後退により、液状化しているのが今の中東であり、大国の横暴の限界が見えてきている」という。

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