トランプ新政権で首席戦略官兼上級顧問のスティーブン・バノン氏が急速に存在感を増し、このほどホワイトハウスの最高意思決定機関である国家安全保障会議(NSC)の正式メンバーに入った。同氏はイスラム7カ国からの入国禁止を決めた大統領令の発案者とされ、メディアを敵視するその言動は注目の的だ。
統参議長と国家情報長官を外して昇格
バノン氏のNSC入りはトランプ大統領が28日に署名したNSC改革の大統領令で決められた。NSCのメンバーは議長役の大統領のほか、副大統領、国務長官、国防長官、財務長官、国土安全保障長官、そしてフリン国家安全保障担当補佐官の7人。ここに新しくバノン氏が加わることになる。
バノン氏がNSCに入ったことにより、それまでメンバーだった米軍制服組のトップである統合参謀本部議長と情報組織を束ねる国家情報長官の2人は関連案件を協議する会議にのみ出席することになった。結果として、バノン氏が2人を追い出す形になった。
バノン氏は海軍将校出身。金融大手のゴールドマン・サックスでの勤務歴やハリウッドのプロデューサーだった経験もある。トランプ陣営の選挙戦に加わる前は、白人至上主義的なニュースサイト「ブライトバード」の経営者で、一部からは差別主義者と批判されている。
「メキシコ国境への壁建設」「イスラム教徒の入国拒否」など、トランプ氏の過激なキャッチ・フレーズはすべてバノン氏の発想で、トランプ氏の当選の原動力になった白人中間層の不満や怒りを選挙に利用することを考えたのもバノン氏だった。トランプ政権の”黒幕”と呼ばれる所以だ。
トランプ大統領が就任直後から矢継ぎ早に繰り出す大統領令もバノン氏主導によるもので、トランプ氏の政治相談役であり、トランプ・ポピュリズムの“番人“。トランプ氏はプロデューサーであるバノン氏の演出で大統領役を演じる俳優のよう。トランプ陣営の最高責任者だったバノン氏に対する大統領の信頼は厚く、信頼度においては娘婿のクシュナー氏と双璧だ。
バノン氏は最近のニューヨーク・タイムズとのインタビューで「報道機関はなぜトランプが大統領になったのかまだ理解していない。メディアは政権の抵抗勢力だ。黙っていろ」と痛烈にメディアを批判した。トランプ氏は「メディアと戦争している」と言っており、メディア叩きではバノン氏と共闘している。
バノン氏は映画「スター・ウオーズ」の悪役で、帝国の皇帝に仕える「ダース・ベイダー」に自身を例えるなど、自らの役回りを割り切っているようだ。バノン氏のような政治担当のホワイトハウス補佐官がNSCの正式メンバーに入ったことはかつてなかったことだ。
バノン氏はトランプ大統領とプーチン大統領ら主要国首脳との28日の電話会談にもペンス副大統領、プリーバス首席補佐官、フリン補佐官らと同席。その台頭ぶりが示されることになった。
オバマ政権の補佐官(国家安全保障担当)だったスーザン・ライス氏は統参議長や国家情報長官を外してまで軍事・外交経験の少ないバノン氏をNSCに入れたことを「全くのきちがい沙汰だ」と非難、トランプ氏に近いと言われるゲーツ元国防長官らも強い疑問を呈した。