バブル時代の価値観ではもう笑えない
ネット上で女性を叩く言葉のひとつに「寄生虫」がある。主に専業主婦に対してこの言葉が使われる。言わずもがな、夫の稼ぎに“寄生”して生きているという意味だ。このCMは、ネット上にはびこる偏見と同じ目線にある。寄生することが前提の女性、働きアリになることが前提の男性。どちらの性にとっても差別的だ。
とはいえきっと、こう言う人もいるだろう。「いやいや、ただの冗談でしょう。このくらいユーモアですませなさいよ」と。
その昔、「亭主元気で留守が良い」というキャッチコピーを使ったCMがあった。もともとは「亭主達者で留守が良い」ということわざだが、「達者」を「元気」に置き換え、1986年の流行語に選ばれた。さらに2013年には「新語・流行語大賞」過去30年のトップ10にも選ばれている。
1986年といえば、バブル景気がまさに始まろうとしていた時期。稼ぐ夫と家にいる妻が典型的な夫婦像であり、そして「留守の方がいい」と冗談を言って笑う「余裕」があった時代なのだろう。裏を返せば、それだけ女性の社会的地位が低く、男性にとって脅威ではなかったということだ。
当時から30年が経ち、専業主婦世帯を共働き世帯が上回って久しい。20~30代の独身者が結婚後に「共働き」を望む割合は専業よりも高いという調査結果が多くある。その一方で、働き続けたくても雇用の場がなかったり、子どもを預ける保育園がなくて仕事を諦めなければならない状況がある。女性が働くことを政府が奨励しているのに、なぜか足かせがなかなかなくならない。男性も男性で昔のようにただ働いていれば自動的に年収が右肩上がりになるわけではないし、育児と家事をともに担うのが「当たり前」で、ちょっと子どもと遊んだだけで「イクメン」を名乗ろうものなら四方八方からドヤされる。男も女も、旧来の働き方や生き方、そして価値観から脱却しようと四苦八苦しながら模索を続けている。未来では「過渡期」と言われるかもしれない、そんな厳しい時代である。そんな時代に、今さらバブル時代の価値観で笑いを取ろうとされてもね。
恐らく「ENEOSでんき」CMの制作担当者は、1980年代からタイムマシーンに乗ってきたのではないだろうか。怒っちゃいないがぽかんとする。ははのん気だね~って感じである。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。