「応援上映」や「発声上映」は、それらとは異なる。その嚆矢となったのは、16年1月に公開されたアニメ映画『KING OF PRISM by PrettyRhythm』(通称『キンプリ』)だった。3人組の男性アイドルグループを描いたコアなファン層に向けた内容だが、「応援上映」では、劇中の展開に合わせてサイリウムを持った観客が大きな声をかけるなど、まさに「応援」しながら観る。観客は受動的に映画を観るのではなく、参加することに価値が置かれている。
こうした観客の能動性は、過去にも見られた。2年前に『アナと雪の女王』が大ヒットしたときに「合唱上映」があり、70年代にはイギリスのミュージカル映画『ロッキー・ホラー・ショー』でも上映中に傘をさしたり声をあげたりするような観客の能動性が見られた。しかし『キンプリ』は、コアなファン層にもかかわらず、過去のそれらよりも広がりを見せ、興行収入7億円を超えるスマッシュヒットとなった。
これによって、2016年は多様な上映形態がいくつか見られた。そのなかで目立ったのが、『シン・ゴジラ』と『君の名は。』だ。
まず9月15日、全国25の映画館でいっせいに『シン・ゴジラ』の「発声上映」がおこなわれた。特設サイトには、「声だしOK!コスプレOK!サイリウム持ちこみOK!」とあるように、それは『キンプリ』の「応援上映」を参考にしていることがうかがえる。そして『君の名は。』では、12月23日に「大合唱上映会」が開かれた。このイベントでも「応援&発声、そして、歌唱可能!」と謳われた。
これ以外にも昨年は『HiGH & LOW THE MOVIE』の応援上映や『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年)の「絶叫上映」があったが、これらの作品に共通するのは、音楽や音響効果が重要な構成要素となっている点だ。
こうした上映方式が今後どれほど広がるかは未知数だが、確実にひとつだけ言えることは、もはや映画観客は、必ずしも席に座って静かに映画を観る存在だとは限らないということだ。映画館とは、遊園地のアトラクションのように4D映画を楽しんだり、あるいはカラオケのように騒いだりする場にもなっている。つまり、観客の受容形態が多様化しつつある。具体的に言えば、観客は自らの映画館における“体験”により価値を置く傾向が確認できる。