また、「不動産バブル」の認識度合いにも温度差があるように見える。当時の日本では、不動産価格高騰に警鐘を鳴らす向きはあったものの、対策が後手に回り、極端な地価下落とそれによる企業、金融機関や個人への大きなダメージを防ぐことが出来なかった。
一方、中国では、「不動産バブル」への懸念が高まりつつあり、不動産取引への規制も強化されつつある。足元でも、4月15日には住宅ローンへの規制強化が発表されており、①初めての住宅購入の場合、頭金の割合を20%から30%に引き上げ(90平米以上の物件が対象)、②2軒目の住宅購入の場合、頭金の割合を40%から50%に引き上げ、③2軒目の住宅購入に適用する住宅ローン金利は基準金利の1.1倍以上とすることを銀行に義務付けるといった、投機取引を抑制する規制が決定された。
これらの相違点や投機的取引抑制措置によって、過度の住宅投資は当面やや沈静化する可能性がある。すでに、北京や上海などの大都市で住宅取引が急減しているとの報道もある。しかし、積極的な財政支出に下支えされた高成長が続き、高水準の賃金上昇があるかぎり、活発な不動産取引を完全に押さえ込むことは難しい。なにより、8%成長が最優先の国家目標となっている中では、敢えて景気を冷やし、雇用悪化を放置してまで住宅価格の調整を最優先にするとは考えにくい。結局、当面住宅価格は調整しても、バブル的な動きを今後とも抑えることは容易ではない。そして、数年後に不動産バブルが一段と大きくなる可能性は排除できない。
所得の高い伸びは中国の強みだ
ただし、中国のGDPと人々の所得が高水準で伸びているところは、80年代後半の日本とは決定的に違う。80年代後半の日本経済でも良好な成長や所得の伸びはあった。しかし、いずれも二桁に上る現在の中国に比べれば小さかった。特に、所得の伸びが鈍化していたことが、バブルが崩壊し、地価が下落してもなかなか不動産需要が回復しなかった背景にある。
中国の場合、所得が大きく伸びているので、住宅価格が一旦下落すればほどなく需要が回復することとなろう。だから、仮に数年後に中国で不動産バブルが膨らみ、崩壊したところで、その後の不況は日本の「失われた10年」と比べると軽く、かつかなり短く終わることとなろう。
経済全体のバランスが取れていてこそ、持続的な成長が実現する。80年代後半の日本では、高成長が終わって安定成長期に入っていたのにアンバランスな不動産価格高騰を招いたことが、不動産バブルと「失われた10年」につながってしまった。
当時、東京が国際金融センターになるとされたことが不動産価格の高騰のきっかけだったが、いまとなっては根拠薄弱もはなはだしい。巨額のマネーや巨大な金融機関はあっても、人材や金融規制などが整わない中でそう簡単に国際金融センターになどなれるはずがなかったからだ。また、当時しきりに言われた「ジャパン・アズ・ナンバーワン」も同様だ。日本人の自尊心を大いに満足させる表現だが、だからといって世界中の人々や企業が大挙して日本に押しかけたわけではなく、海外マネーや外資系企業が日本の不動産価格高騰の主役だったわけでもない。
中国の場合、潜在成長力は大きく、今後とも高成長が続く可能性は十分にある。経済のバランスから言えば、不動産価格のそれなりの上昇も正当化される。所得の大幅増加が続けばなおさらだ。しかも、中国政府の規制強化などもあり、当面の住宅バブル懸念はそう大きくないとも言える。