定年バックパッカー海外放浪記

2017年3月5日

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高野凌 (たかの りょう)

定年バックパッカー

1953年、横浜生まれ。神奈川県出身。大学卒業後は商社、メーカー勤務を経て2013年定年退職。2014年春から海外放浪生活を始める。放浪歴は地中海、韓国、インドシナ半島、インドネシア、サンチアゴ巡礼など。サラリーマン時代は主として海外業務に従事。ニューヨーク、テヘラン、北京にて海外駐在を経験。身長170センチ、57キロ。獅子座。A型。現在2人のご子息は独立し、夫人との2人暮らし。孫1人。

パガンの夕陽を背景に千の仏塔を眺めながら

 ある日、綺麗な夕陽を見たいとアナが言ったので夕刻二人で自転車に乗ってゲストハウス近くの寺院に向かった。廃墟となった寺院の階段を登るとそこには夕陽の絶景が待っていた。十人前後の欧米人のカップルが思い思いに寺院の屋根の縁の通路に腰かけてまんじりともせず落日を眺めていた。

パガンの夕陽に映える千の仏塔のシルエット

 夕陽を背景に1000以上と言われる仏塔のシルエットを眺めながらオジサンも感動した。隣に座っていたアナは感動で涙目をしている。共感できる相手が傍らにいるときに感動は一層深くなるものだと改めて思った。そして孫娘の幸せを心から願った。

クリスマス・イブのヤンゴンで涙の別れ

 ヤンゴン最後の晩はクリスマス・イブであった。アナが一緒に夕食をしたいと誘ってきた。アナの隣のベッドにいたオランダ人の18歳の大学生も一緒に行くことになった。

オランダ青年ヤンと孫娘アナ、ヤンゴン名物BBQ横丁で

 高層ビルの最上階のラウンジで夕陽を眺めながら3人でビールを飲んだ。ヤンは好青年で三島由紀夫の信奉者。“金閣寺”を絶賛。ヤンに感想を聞かれて正直困った。高校時代に課題図書か何かで“金閣寺”を読んだが面白味が理解できなかったのである。仕方がないので三島が日本の文学界では天才であるがゆえに異端的存在であったことや、東大卒のエリートで大蔵官僚であったことなど彼が知らないような背景を説明してお茶を濁した。ヤンは嬉しそうに相槌を打って、「だから日本の現実社会に絶望して日本の美しい伝統を守るために武士道に従ってハラキリ自殺をしたのですね」と立派な解釈を披露してくれた。

美男美女のカップル、ミャンマーの伝統的民族衣装で結婚式

 それからヤンゴン名物BBQ横丁で焼き鳥とビールという定番コースへ。例によりしこたまビールを飲んで酩酊状態。早々に宿に戻りベッドに転がり込もうとお別れの握手をした。ところが握手をしたらアナがすぐに抱き着いてきてハグをしたまま放さないのである。

 しばらくしてから今度は私の両手を握って泣きながら「タカ、あなたは私のアイドルです。いえ、タカは私たち若者のアイドルです。あなたと出会った若者はみんな誰でもあなたを尊敬してあなたに憧れます。この思い出は一生忘れません。うんぬんかんぬん……」と延々と日本語に直訳すると気恥ずかしくなるような過分なお褒めの言葉が続いた。思えば37年前の結婚式以来かくも素晴らしい賛辞を頂いたことがなかった。

 そして最後に再びアナが泣きながら大仰にハグをしてからやっと解放された。深く酩酊したオジサンのヤンゴンの聖夜は静かに更けていった。

後日談、アナのその後

 アナと別れてから半年後、2016年夏のある日フェイスブックを見ていたらアナがケルン大聖堂を背景に欧米学生たちとピースしている写真を発見。「ドイツで何しているの?」とメッセージを入れたら折り返し「ドイツの大学に留学中です」と回答が来た。

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