上記の論説は、トランプの貿易政策をあらゆる観点から批判しています。まず、それは原始的重商主義であると揶揄しています。重商主義は16~18世紀のヨーロッパの絶対王政国家の経済政策で、財政確立のため貿易収支の黒字を目指し、輸入の抑制のため高関税による保護貿易政策を取りました。つまりトランプの貿易政策は資本主義以前の時代錯誤の政策であると批判しています。
トランプの間違い
貿易赤字を決めるのは貿易政策であると信じるのは間違いであると指摘しています。トランプは米国の貿易赤字が需要を減らし、米国経済の足を引っ張っていると考えています。貿易赤字は相手国が輸入制限をしているからであると断定し、相手国からの輸入に関税をかけることによってそれを減らし、貿易赤字を減らそうとするものです。しかし、米国の貿易赤字は、実際には、製品の国際競争力、内外の景気動向、為替レートなどによって左右されます。1980年代後半からの日米貿易摩擦の際、日本側は米国の貿易赤字は、米国の財政赤字や過剰消費、過小貯蓄に問題があるためであると主張しました。
トランプは貿易赤字を減らすため、中国からの輸入には45%の、メキシコからの輸入には35%の関税をかけると言います。米国のピーターソン国際研究所によれば、もしこの貿易政策が実施されれば、それは報復を招き、米国経済は不況に陥り、480万人の民間の雇用が失われる恐れがあります。もし、トランプが保護貿易政策を実施すれば、それは米国に雇用をもたらすどころか、米国の雇用を害する恐れがあるのは間違いありません。
ウルフは、トランプの保護貿易政策の地政学的影響も大きいと言っています。その通りでしょう。「トランプ貿易ドクトリン」は、米国がこれまで築き上げ、世界に繁栄をもたらした自由貿易体制を崩すものです。それは、世界にとってのみならず、米国経済にとっても、大きな損失となります。
残念ながら、トランプ政権が、保護貿易主義の基本的問題を自覚するには、ある程度の時間がかかるでしょう。その時間は短ければ短いほど、世界経済、米国経済、そしてトランプ政権自体にとっての損失は少なくて済みます。
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