2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年3月3日

 英フィナンシャル・タイムズ紙コラムニストのフィリップ・スティーブンスが、2月2日付同紙掲載のコラムで、フランスで変化が起きている、来るべき大統領選挙はポピュリズムの潮流を逆転させる結果となるかもしれない、という論説を書いています。要旨、次の通り。

(iStock)
 

 何かがパリで起こっている。雲を通して日が差し込んでいる。英国は大陸を離れる。米国の新大統領は米国を好戦的孤立主義に引っ張っている。全ての政治の物語は悪い結末で終わるようだが、これをフランスが覆すかも知れない。

 ポピュリズムの反抗の時代にあって大統領選挙の結果を予測することは無謀である。フランスは過去10年近く経済的病にあった。イスラム教の残忍なテロリストの犠牲となった。オランド大統領の支持率は一桁に落ちた。Brexitとトランプの後では、フランスの政治エリートの死体が積まれた運搬車を思い浮かべることは別段想像力の手柄というわけではない。

 そうかも知れない。しかし、パリはそのようには感じていない。経済界は突然強気に転じた。若いハイテクの起業家がロンドンやニューヨークではなくパリで資金調達を始めている。パリはデジタルのハブとして活気付いている。有権者の大きな政府への執着は減退している。

 現在の状況ではルペンは決戦投票に進出する。しかし、テロのために国民が決定的に反イスラムに転じたわけではない。トランプの醜いナショナリズムがフランスの利益は結束した欧州にあることを強烈に思い出させることになった。ユーロを放棄するというルペンの約束は支持を得ていない。もしかすると、フランスはポピュリストの潮流を逆転することになるかもしれない。
社会党はブノワ・アモンを候補に選出したが、彼は第一回投票で惨敗するであろう。彼にとっては左翼のイデオロギー的純潔の維持が統治よりも重要のようである。

 選挙戦を盛り上げているのは中道の政治運動「進め!(En March!)」を率いるエマニュエル・マクロンである。彼は国立行政学院(ENA)出身のエリートであるが、ポピュリストの風を読んでアウトサイダーとして振舞っている。経済の近代化と欧州におけるフランスのリーダーシップを訴える彼の集会には数千人が詰めかける。若いトニー・ブレアの風がある。彼の立候補は当初見向きもされなかったが、幸運にも恵まれた。アモンの選出は穏健な社会党支持層をマクロンに追い遣るであろう。更には、最近になってスキャンダルが共和党のフランソワ・フィヨンを襲っている。

 一週間程前まではフィヨンが最有力と見られていた。過激な経済改革を唱えるフィヨンはマクロンを大きくリードしていた。しかし、そこがフランスである。彼は妻と子供に勤務実態のない不正給与を公金から支払っていたという疑惑によって苦境に立った。彼は疑惑を否定しているが、彼の事務所に入る捜査官の映像が倫理的高潔さを主張して来たフィヨンに好ましい筈はない。世論調査によれば、決選投票でルペンに対峙した場合の支持率をフィヨンとマクロンは僅差で争っている。スキャンダルはフィヨンの命取りとなり得る。その場合にはアラン・ジュペが控えている。

 誰が当選するかはともかく、より重要なことは有権者のクリティカルマスがフランスは改革を必要としていると決した兆候が見られることである。それは中年・老年層の特権を若い失業者の利益に反して無期限に守ることは出来ないということである。この変革を追求するのは自分だけだとはルペンは主張出来ない。

 昨年一年、ポピュリストが売り歩いた経済的ナショナリズムとアイデンティティの政治に対抗することは高くつく娯楽であった。しかし、怒りが政治の支配的感情であるという不易の法則はない。フランスは我々――そしてフランス自身――を驚かせるかも知れない。

出典:Philip Stephens,‘France could turn the populist tide’(Financial Times, February 2, 2017)
https://www.ft.com/content/b0f45f12-e7c8-11e6-967b-c88452263daf


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