米国のシンクタンクCNAS(新アメリカ安全保障センター)のフォンテイン代表とラップ=フーパー上席研究員が、1月23日付ウォール・ストリート・ジャーナル紙掲載の論説にて、米国の世界からの後退の後に生まれる真空を中国が埋めようとしており、習近平のダボス会議参加はそれを見せつけることになった、と警告しています。要旨、次の通り。
数カ月前には、中国が国際秩序の救世主になるといった考えは全く不条理だった。しかし、習近平は、ダボスで保護主義を批判しグローバリゼーションを擁護することにより、中国が一層大きなリーダーシップを取っていくことを訴えた。ダボスに集まった世界のエリート達はこれを好意的に受け止めたようだ。
国際政治は真空を嫌うものだが、習近平は正に米国が退いた後に付け入ろうとしている。オバマが海外関与を縮小しようとしていると見られたこと、TPPが終焉したこと、トランプ政権の海外関与に関する範囲や性格について不確実さがあることを見て、中国は利益を得ようとしている。
しかし、中国を開放経済の砦と見做すこと、ましてや世界のリベラルな秩序の支柱だと見做すことは大きな皮肉になる。中国は既存のルールを曲げようとしている。南シナ海での拡張的な主張や埋め立ては海洋法に反する。上海機構等はアジアの安全保障秩序を脅かす。世界の人権基準を拒否しインターネットを統制しようとしている。外国投資や知財には厳しい態度を取り、国営企業はWTOの抜け穴を悪用している。為替も安くしてきた。
このようなことを考えると、中国の国家主席が世界のヘッド・テーブルに座るなどということを歓迎することはできない。欧州や米国の現状を見てダボスのエリート達が新たなリーダーを求めたことに驚くべきではない。
大統領選挙は米国に対する懸念を強めた。アジアが良い例だ。南シナ海での中国の活動に対する米の相対的に抑えた対応、貿易政策の瓦解等はアジア・リバランス政策を弱体化した。TPPが沈みRCEPが上がってきた。フィリピン、マレーシア、タイは中国への接近を始め、豪州や北東アジアでも米国の力について疑念が高まっている。
習近平は意図せず米国に良いことをしたかもしれない。すなわち、真空を中国等が埋めようと狙っていることを示すことになり、米国に警報を発した。
米国等が作り上げた国際秩序は未曽有の平和、繁栄、自由を世界にもたらした。しかし、秩序に自力執行の能力はなく、秩序の維持には米国の力が不可欠だった。中国がリードする世界は繁栄が縮小し自由は縮小されたものになるだろう。世界の殆どの国と米国の利益は、米国のリーダーシップを維持することである。
出典:Richard Fontaine & Mira Rapp-Hooper,‘If America Refuses to Lead’(Wall Street Journal, January 23, 2017)
http://www.wsj.com/articles/if-america-refuses-to-lead-1485194280