また、彼が務めていたグローバル企業は日本でも展開しているが、日本国内での粉ミルクの製造販売は行っていない。このことと、世界で初めて公開が決まった国が日本であることについて関連があると思うかを聞いた。
「関係はないと思うけれど、理由の一部なのかもしれない。少なくとも、メーカーがこの映画の公開を好ましく思っていないことは確かだと思う。当初の予定ではインドや中東で公開される予定があったけれど、とにかく公開が決まったことがうれしい」(フセイン氏)
このグローバル企業は児童労働などの問題でも糾弾され、国際的なイメージは非常に悪い。しかし日本ではほとんど報じられておらず、関心が払われていない。また、映画内ではこの企業だけではなく、他のグローバル企業でも同じことが行われている可能性があることも示唆されている。
「巨悪の出どころは、強さではなく、弱さ」
映画のパンフレットには、このような社会問題をどうやって「説教臭くならずに」伝えるかが大きな課題だったと書かれている。妻子を愛する普通の市民だったフセイン氏が大企業との闘いに身を投じていく姿が違和感なく描かれている。
試写を見たという、液体ミルクの国内販売を求める「乳児用液体ミルクプロジェクト」代表の末永恵理さんからはこんな感想が寄せられた。
「構成が面白い映画で、社会派だけど居心地悪くならず楽しみながら観られました」
「観客は主人公の成功を追体験し、その成功を手放し家族を危険にさらすことの過酷さも目の当たりにします。これは同時に、粉ミルクに関わる社員や医師たち全員が突き当たる壁でもあります。(悪から)目をそらす一人ひとりの弱さが集まったとき、赤ちゃんを死に追いやる巨悪に化けてしまうのです」