映画の中では下水道が整備されていない地域で、衛生的ではない水で粉ミルクを溶く母親の姿が登場する。ミルクを与えられた乳児は下痢などの症状を起こし、命の危険にさらされる。母親たちは大手グローバル企業(※)の販売する粉ミルクは質が良いと医師から勧められていた。
(※)作中に実名が登場する。インターネット上でもすぐに検索できる。
発展途上国における粉ミルクの危険性は不衛生な水だけが問題ではない。貧しい家庭では、粉ミルクを節約するために薄めて使ってしまうことさえあった。もちろん、これでは乳児が必要な栄養分を接種できず、栄養失調につながる。さらに、粉ミルクだけを与えることが続くと、多くの場合、母親は母乳が止まってしまう。粉ミルクを買うお金がなくなった母親が母乳を与えようとしたとき、母乳が出なければ乳児は栄養を摂ることができなくなる。
海外では、メーカーが無料配布した粉ミルクのサンプルを使ったために母親の母乳が止まり、深刻な事態に陥ったケースも報告されている。このため、WHOは粉ミルクメーカーが母親たちに直接接触することについて注意喚起を行っている。
「メーカーがこの映画の公開を好ましく思っていないことは確か」
映画の主人公アヤンのモデルになったのは、現在トロントに暮らすサイヤド・アーミル・ラザ・フセイン氏だ。フセイン氏にスカイプで共同取材を行い、いくつかの質問をした。
この映画で糾弾されているグローバル企業がパキスタンで粉ミルクを販売する際、医師や母親に対して「衛生的な水を使う」「薄めてはいけない」「母乳が出なくなる可能性がある」などの指導を行うことはなかったのだろうか。賄賂を受け取って母親たちに粉ミルクを進めていた医師は、この危険性に気づいていなかったのだろうか。
フセイン氏は、母親たちに対する指導は「全くなかった」と答えた。
「医者たちは(下水道が整備されていないパキスタンでは)母乳が一番良いことはわかっていたが、情報を分かち合うことはなかった。記憶にある限り、母親たちに情報を伝えるプログラムはなかった。ただ、それにもかかわらずベビーショーなどで母親たちに接触し、『賢い子になりますよ』と言いながらサンプルを渡す行為は、違反行為にもかかわらず行われていた」(フセイン氏)