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2017年3月10日

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吉原祥子 (よしはら・しょうこ)

東京財団研究員兼政策プロデューサー。東京外国語大学卒。タイ国立シーナカリンウィロート大学、米レズリー大学大学院などを経て現職。国土資源保全プロジェクトを担当。

 所有者不明化問題の1つひとつの事象は小さいかもしれない。しかし、この問題が各地で慢性的に発生し堆積していくことで、再開発や災害復旧、耕作放棄地の解消など、地域社会が新たな取り組みに踏み出そうとしたときに大きな足かせとなる。地域の活力をそぐ問題であり、全国で同じようなことが繰り返されていくことで、長期的には国力を損なうおそれがあるといっても過言ではない。

今後必要な対策

 それでは、今後、どのような対策が必要だろうか。地価の下落傾向が続き、「土地は資産」との前提が多くの地域で成り立ちづらくなるなか、土地制度が大きな転換期にあることは明らかだ。

 まずは国と自治体が協力し、地域が抱える土地問題について実態把握を進めることが必要だ。その上で、国土保全の観点から、どのような土地情報基盤が実現可能か、また、どのような関連法整備が必要か、省庁横断で整理していくことが求められる。

 短期的な対策としては、まず所有者、自治体双方にとって各種手続きのコストを下げる必要がある。たとえば相続人による相続登記や、自治体による相続財産管理制度の利用にあたり、費用負担を軽減し手続きの促進を支援していくことなどだ。

 同時に、相続登記の促進を図りつつも、登記が長年行われず数次にわたって放置されているものについて、一定の手続きを踏まえた上で利用権設定を可能にする方策など、踏み込んだ対策の検討も今後は避けて通れないだろう。

 森林については、所有者不明などの問題の広がりを踏まえ、昨年の森林法改正のなかで、市町村が所有者等の情報を林地台帳として整備することが義務付けられた。ただし、この法案に対しては全国市長会から、「都市自治体では、地域住民の多様なニーズに対処するため、絶え間ない行政改革を断行している中、新たな事務を一律に義務付けるような制度改正については、地方の実情を踏まえ十分な検討を行うことが必要である」との申し入れがあった1。人口が減少し、土地需要も相対的に減っていく中で、国土保全の観点から最低限必要な情報を国と地方が連携して効率的に整備していくことが求められる。

 さらに、長期的な対策として必要なのが、所有者不明化の予防策である。具体的には、利用見込みのない土地を所有者が適切に手放せる選択肢を作っていくことが急務だ。本来、個人が維持管理しきれなくなった土地は、できれば共有したり、新たな所有・利用者にわたることが望ましい。だが、現状、そうした選択肢は限られる。地域から人が減るなか、利用見込みや資産価値の低下した土地は、そのまま放置するしかない。「いらない土地の行き場がないんです」とは、ある自治体職員の言葉だ。NPOなど地域の中間組織による土地の寄付受付の仕組みや、自治体による公有化支援策の構築等、土地の新たな所有・利用のあり方について議論を本格化させる必要がある。
 

1:全国市長会「『森林法等の一部を改正する法律案に対する申入れ-林地台帳(仮称)の整備について-』を森山・農林水産大臣に提出(平成28年2月25日)」http://www.mayors.or.jp/p_action/a_mainaction/2016/02/280225daichoseibi-moushiire.php

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