2024年12月3日(火)

オトナの教養 週末の一冊

2017年3月11日

 収益性、生産性の低さから非効率の極みのように言われる日本農業。ハイテク技術から最も遠い存在と決めつけがちだが、講談社+α新書の『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』はそんな思い込みを真っ向から否定する。日本農業はこれから一大変革期を迎え、AI(人工知能)やビッグデータ、IoTといった最先端技術を駆使した新しい形に生まれ変わるというのだ。著者で農業ジャーナリストの窪田新之助さんに聞いた。

――人が行ってきた仕事をロボットやAI、IoTが代わりに果たしていく次世代の農業を「ロボットAI農業」と定義していますね。ロボットやAIといった先端技術と農業が結びつくということを、どういうきっかけで知ったのですか。

窪田:ロボットの農業分野での活用が始まったのはずいぶん古く、私が初めて見たのは2006年ごろ。まだ記者になって間もないころで、つくば市の今の農研機構の中央農業研究センターに行って、無人の田植え機が田植えをする実証実験を見たんです。

 その時は「なんて実現性のない実験だろう、研究者のための研究なんじゃないの」という印象だった。自動運転の精度が低くて、かなり蛇行して走っていた。当時はまさかその技術がここまでレベルアップするとは思わなかった。

 以来ずっと農業の取材をしてきたけれど、ロボットの取材なんて全然しなかった。そもそも、ロボットというものが農業の中で本流だとは考えなかった。コスト低減や生産性の向上という課題に対して、コメなら収量の多い多収品種、田植えをしないで直接種をまく直播など、技術的にはほぼそういう対処法で片づけられてきた。あるいは政策的に米価を上げて高コストでもやっていけるようにするというような話に終始してきた。これまで農業界はずっとそれでよかった。

 それなのに、なぜここにきてロボットやAIが注目されているかというと、日本では生産人口の大幅な減少という事態がやってくるのが目に見えている。中でも特に農業は、大勢の人が一気にやめていく大量離農の時代がもう目の前に迫っている。たくさんの農家がやめていく中で、それを補うどういうものがあるかと考え始めたということです。

 3年ほど前から農業分野でのロボット活用の取材をするようになった。「日本再興戦略」改訂2014(2014年6月閣議決定)でも「ロボットによる新たな産業革命」というロボット戦略が出てきていたでしょう。ロボットが国家的にも注目され始めてきたころで、農業分野でこれまでずっとあまり注目されない研究だったロボットが、ここにきて表に出てくるようになった。自動運転も田植え機だけでなくトラクター、コンバインなどで一斉に実証実験の現場を披露するようになって、そういうものを久しぶりに見て、ずいぶん精度が上がってきたなというふうに感じたんですね。

――執筆の原動力になった、目を見開かされた事例というのがあるんでしょうか。

窪田:ITベンチャーのオプティムの開発した農業用ドローンでしょうね。農業分野でディープラーニングを初めて導入した事例です。ロボットは人体に例えたら体で、脳がAI。2012年にディープラーニングによるAIの発展におけるブレークスルーがあって、それまで人が教え込んだことしか実行できなかったのが、ディープラーニングで自ら学習し、データをどんどん取り込めば、情報の中から自ら答えを導き出せるようになった。ただ、人間のような総合能力はないから、専門的な分野、特定の分野に限定されるけれども、自ら答えを出すことができるようになったのが非常に大きい。

 特定の分野の仕事においてはロボットが人に成り替わる時代がやってきた。それを象徴するのがオプティムの農薬を散布するドローン。大豆の畑を見て回って、害虫を見つけ出してピンポイントで農薬をまいて退治すると。ディープラーニングを使って農薬がまけるということは、ほかにもいろんなことができるようになるということなんですね。その秘められた可能性を目の当たりにして、こんな時代が来ているんだなと驚かされた。


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