百年レストラン 「ひととき」より

2017年4月11日

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伝統的なタネを味わえる

平成2年(1990)に上梓された曻雄氏の著作。鮪の使用の歴史についても触れている

 一方で曻雄氏は、鮨の研究を重ねた。多くの専門誌、百科事典の鮨の項目を執筆したうえ、『鮓・鮨・すし すしの事典』(旭屋出版)などの研究書を上梓している。

 4代目の正二郎さんも鮨の歴史に詳しく、正敏さんもその流れを受け継いでいる。

 正敏さんは明治大学経営学部を卒業後、他店で修業することなく実家で働き出した。

 「僕は、どっかに修業に行くのかなと思っていたんですが、親父が『他の店の味より、うちの味を覚えないと困る』と言って」

 老舗鮨屋だけに、独自のやり方がある。シャリには赤酢と塩を加えるだけで、砂糖は入れない。握り方も手数が比較的多いそうだ。また、今ではあまり見かけなくなった伝統的なタネも使っている。蛤(はまぐり)、浅蜊(あさり)、烏賊(いか)を煮て提供しているのだ。正敏さんが説明する。

ここはトロ握りの発祥店。大トロ、中トロ、共に1貫1,200円(税別、以下同)。ヒョイとつまんで一口で食べる。シャリとタネのバランスが非常によい

 「昔は魚を獲って鮨屋に運ばれるまでに時間がかかったし、冷蔵庫もありませんでした。魚をもたせるために、締めたり煮たりしたわけです。でも流通や保存が良くなるにつれて魚の鮮度を競うようになり、出すのを止める店が増えました。うちも一時期、鮪の漬けと鯛の昆布締めを止めていたんですが、僕の代になってから復活させました。ただし、もたせるための技術を、味を良くするために使っているんです。味優先ですから、昔ほど漬けたり締めたりしていません。

 握り鮨が誕生したのは、江戸後期のこと。日本食の長い歴史を考えれば、そんなに古いものではない。まだまだ変えていく余地もあるでしょう。でもその前に、鮨の基礎や原点を学ぶ必要があると思います」

 同店では、酒のつまみはほとんどない。

 「刺身以外では、焼物をちょっと出すくらい。鮨屋なもんで」

 もともと鮨は、江戸時代のファストフードだった。屋台時代から百四十年近く握ってきた矜持と”鮨哲学”が感じられる。

写真・伊藤千晴

吉野鮨本店
<所在地>東京都中央区日本橋3─8─11
(東京メトロ銀座線・東西線日本橋駅から徒歩約2分、東海道新幹線東京駅八重洲中央口から徒歩約4分)
<営業時間>11時~14時、16時30分~21時30分*土曜は昼のみ
<定休日>日曜・祝日
<問い合わせ先>☎03(3274)3001 

  
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◆「ひととき」2016年5月号より

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